2018 Fiscal Year Research-status Report
関係者の証言に基づく改正貸金業法の10年:リスクの社会化の応用可能性と新たな問題
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18K02016
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Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
大山 小夜 金城学院大学, 人間科学部, 教授 (10330333)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 改正貸金業法 / 多重債務 / 個人破産 / 金融化 / 法律家 / 東アジア / 韓国 / 台湾 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の初年度にあたる本年度は、2006年改正貸金業法(以下、改正法)の制定を主導した支援実務者界への聞き取りと、関連統計・資料の収集及び分析を重点的に行った(以下の(1)~(4))。 (1)東アジア(日本・韓国・台湾)の支援実務者界の展開…日本・韓国・台湾の多重債務者及び法律家が開催する「第9回東アジア金融被害者交流集会」に参加し、各国の情勢と課題について関係者から話を聞くことができた。帰国後に行った資料の追加的収集と関係者への聞き取りの結果も踏まえ、改正法以後の「韓国・台湾にみる多重債務対策の展開」をまとめ、法律誌に掲載することができた。 (2)日本国内の支援実務者界:改正法の制定運動と主要指標動向…1980年代以降の米国金融・社会動向との比較を念頭に、日本の支援実務者界による改正法の制定運動と改正法以後の主要指標動向を、米国経済史の研究者グループとの共著『ウォール・ストリート支配の政治経済学』(近刊)にまとめることができた。 (3)日本国内の支援実務者界:統計と資料を用いた40年間の時代別検証…①改正法の制定を主導した支援実務者界の40年間の活動の歴史を、現有する資料と貸し手(=消費者信用統計)・借り手(=破産統計)・国民経済(=家計貯蓄率)からなるマクロな統計データをもとに、時代別に考察し、論稿「クレサラ対協と多重債務救済の歴史を紐解く」にまとめることができた。 (4)東アジア(日本・韓国・台湾)の支援実務者界の形成と影響…金融資本の国際化と多重債務の「越境」を背景に、日本・韓国・台湾の支援実務者による国際連携が発生した経緯とその社会的影響に関して、事実関係を整理した論稿「国際交流14年間を振り返る」にまとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)日本・韓国・台湾の多重債務者及び法律家による国際会議「第9回東アジア金融被害者交流集会」が韓国・ソウル市で開催され、これに参加することができたことが大きい。この会議には、各国関係者が、事前に提出した多重債務の実態と対策に関する資料に基づいて情勢分析を行い、課題解決策を検討する。国際間の認識の共通点、相違点が明らかになり、また、会議に参加したことで後日の補足調査を円滑に行うことができた。 (2)改正法の国内的評価は固まりつつあるが、国際的な位置づけはほとんどなされていない。こうしたなか、米国経済史を専門とする研究者グループとの図書の執筆・編集作業を通じて、経済界・学術界における関心の焦点(金融化、銀行等による個人向けローンなど)を知ることができた。 (3)本研究の調査対象者を構成する6つの「界」のうち、特に重要な「支援実務者界」を代表する民間団体の元事務局長から、同団体の設立以前からの貴重な内部資料をまとめて入手することができた。これにより、国内の過去40年間の支援実務者界の動向を詳細に把握することが可能になった。 (4)日本・韓国・台湾の支援実務者界は、共通の利害関心に基づくものの、その具体的な活動は、各国の情勢や諸資源の多寡等によって、それぞれが独立的に、かつ同時並行的に行われている。これらについて、単発的に発行、配布される資料はあるものの、体系的な記録物がない。このため、聞き取りの際の基礎資料を作成することが本年度の課題であった。この課題を達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
支援実務者界へのアプローチは本研究の鍵であったため、本年度のうちに国内外の支援実務者界に関する経時的、国際的検討ができ、また、有用な情報や視座を得ることができたことに安堵している。以上の成果を踏まえ、次年度以降は、他の5つの界(行政、司法、立法、経済、学術)への調査を行う。調査項目にしたがって関係者の証言を集めることになるので、調査データのテキスト化やデータベース化の作業が必要となる。本年度の研究を通じて、改正法以後の各種資料の散逸が当初の想定以上に進行していることが明らかになった。このため、公開、共有を前提とした重要資料の体系的な収集や保管の体制整備にも取り組みたい。
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Causes of Carryover |
本年度は重要な基礎データの収集と検討を重点的に行った。収集資料については多くが関係者からの無償貸出でまかなうことができた。以上によって生じた「次年度使用額」は、次年度以降の調査費用、資料収集等にあてる。
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