2019 Fiscal Year Research-status Report
関係者の証言に基づく改正貸金業法の10年:リスクの社会化の応用可能性と新たな問題
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18K02016
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Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
大山 小夜 金城学院大学, 人間科学部, 教授 (10330333)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 過剰債務 / 東アジア / 破産 / 消費者ローン / 社会運動 / 金融化 / 改正貸金業法 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の成果が刊行され、それらについて種々の反応(情報や視座の提供)を得た。これらを手掛かりに研究を進展できた。第一に、「韓国・台湾にみる多重債務対策の展開」(消費者法ニュース119号、244-247)が4月に刊行され、東アジアの動向を捉える1つの視点(「リープフロッグ」)を得た。第二に、6月に「クレサラ対協と多重債務救済の歴史を紐解く―時代別の検証」(12-20)、「国際交流14年間を振り返る」(180-183)(いずれも『全国クレサラ対協40周年記念誌』(2019年)所収)が刊行され、これら2本の内容を、上の「リープフロッグ」に「金融被害の輸出」も加えた視座からまとめ直したものを、日本・韓国・台湾の法律実務家・研究者・債務者が集まる「第10回東アジア金融被害者交流集会」(国際教養大学)で報告した(同集会「基調報告」)。第三に、この集会に参加した韓国の法学者から依頼を受け、上記報告に歴史的文脈(近代史上最大規模の負債減免等要請運動=1884年秩父事件)を加えたものを、『韓国倒産法雑誌』に投稿した(”Over-indebtedness Measures in East Asia: 40 Years for Japan and 10 Years for Korea-Taiwan-Japan Relations”。2020年5月刊行予定)。第四に、上の歴史的文脈を調べる過程で「労働組織による社会運動」の観点から改正貸金業法を研究している方と知り合うことができ、この方へのインタビュー調査を行うことができた。第五に、20年2月に共著『ウォール・ストリート支配の政治学』(大橋陽・中本悟編著、文眞堂)が刊行され、各方面に発送させていただいたところ、国際的金融化の研究動向等について社会学、経済学研究者の方々から教えを受けることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度行った支援実務者界に関する調査の成果が今年度に刊行され、研究対象の方々や学術関係の方々から反応(示唆)を得たことが大きい。そのことを手掛かりに、方法論的には、他の5つの界(行政、司法、立法、経済、学術)からデータを得ることに注力できたからである。昨年度の経験から、各種資料の散逸が改正法後、かなり進行していることがわかった。このため、今年度は、関係者への直接的なインタビューもさることながら、関係者の証言録とそれを裏付ける関連資料の収集を重視した。一方、理論的には、各界内部の、また複数界における相補的な均衡状態が打破される条件に注目することの重要性に気づかされたからである。改正貸金業法は、「労働組織の社会運動」の成功例としても捉えられているが、その後の類似の社会運動への適用拡大があまり見られないことへの問題意識が一部労働組織の関係者内にある。逆にいえば、なぜ改正貸金業法においては労働組織の社会運動が成立しえたか、である。「技術・産業に対する社会制御」という点から本研究を省みることができ、大きな学びとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
方法論的には、6つの界の関係者から直接的なインタビューを行うことである。理論的には、以下の2点を念頭に置く。第一は、「逸脱・社会問題の制度化による官僚制的逆機能」の探求である。逸脱や社会問題の制度的解決は、それが高度な分業化、専門化を必要とするほど、いったん制度化されると「当事者不在になりがちであること」「その修正・代替が困難になること」などの問題が生じる。これらに照らして日本の現在の過剰債務対策をみた場合、どのような得失が見出しうるか、である。いったん結成された労働組織から制度改変につながる大きな構えが失われ、社会的影響力を失うことの弊害はさまざまに指摘されているが、「保守化」「官僚主義化」ともいわれるこうした現象は、司法、行政、専門職集団など、あらゆる組織に起こりうることだからである。 第二は、今日の日本の過剰債務対策を、長期的視座(つまり歴史的観点)から捉えることである。欧米先進諸国では、資本主義の展開を背景に導入された利息制限法が、重商主義を経て社会政策的観点から修正、代替されて今日に至っている。日本の過剰債務対策についても、当時の法執行や立案の関係者による関連法制への認識と取組みを、こうした法制史的文脈に位置付けることは重要である。そのことによって、国際比較の基盤を得、改正貸金業法、および日本の過剰債務対策の汎用性や特殊性も明らかになると思われるからである。
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Causes of Carryover |
今年度は試行的に低コストな証言録や関連資料の収集、また集合的な調査を行ったところ、当初想定しえなかった新たな知見を得ることができたため、これらの調査を継続したことによる。
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