2022 Fiscal Year Research-status Report
関係者の証言に基づく改正貸金業法の10年:リスクの社会化の応用可能性と新たな問題
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18K02016
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Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
大山 小夜 金城学院大学, 人間科学部, 教授 (10330333)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 過剰債務 / 国際比較 / 権益構造 / 社会運動 / インターネット取引 / 法律実務家 / 自助組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、過剰債務者自助組織の40周年記念誌の作成過程に接し、支援実務者界のうちとくに過剰債務者自助組織の幹部らに対しインタビュー調査を行った。また、これまでの東アジア(日本・韓国・台湾)の事例に加え、貸金市場の広がりにともない、他の地域の調査や国際比較も可能にする分析枠組みを探った。その結果、次のような項目が注目すべき点として明らかになった。 ・過剰債務が社会において構造化される過程は、金融セクター(貸手)を中心とする権益構造の形成という観点から捉えることができる。「信用供与額」「債務不履行率」「金融セクターと各界との諸資源の交流の頻度・濃度」などの諸変数に注目することで、国際比較が可能となる。 ・過剰債務運動は、貸手中心の権益構造に、別(=借手中心)の視座から切り込んで、金融制度を含めた社会再編を促す集合活動である。このような活動において法理(=認知的共感)に訴える法律実務家と、情(=情動的共感)に訴える過剰債務者は、利他行動を喚起するうえで相補的な働きをする。 ・「改正貸金業法の10年間」で支援実務者界を取り巻く環境は大きく変わった。「貸金市場の縮小による過剰債務者減」に加えて、「労働・貧困問題の“発見”」「スマートフォーンを活用した取引の非対面化、不可視化、複雑化」「一部法律実務者による大量の広告を用いた地域横断的な集客や非対面型の介入」などである。これらによって各地の支援実務者界は、これまでに蓄積された資源や経験の違いによって、「相談件数の減少による活動の減退や休止」「複雑化した課題に対応するためのより高度な知識・技術の習得と実践」など、異なる道を歩んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍の影響から、当初計画していた現地調査、対面型インタビュー調査の実施が部分的なものにとどまったためである。
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Strategy for Future Research Activity |
オンラインによるインタビュー調査がかなりの程度可能になった。また次年度は新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行し、現地調査、対面型インタビューが容易になる。これらの方法を駆使して関係者の証言を広く得る予定である。
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Causes of Carryover |
デジタルツールの普及を背景に、予定していた対面型インタビュー調査がオンライン・インタビュー調査に代替されたことなどによる。しかし、現地調査や対面型インタビュー調査でなければ得られないデータも多い。次年度は、現地調査、対面型インタビュー調査も積極的に行い、より深みのあるデータを得る予定である。
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