2022 Fiscal Year Research-status Report
日本的雇用システム、特に「転勤」が家族形成や女性のキャリア形成等に与える影響
Project/Area Number |
18K02017
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
藤野 敦子 京都産業大学, 現代社会学部, 教授 (50387990)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 転勤 / 日本型雇用制度 / 媒介因果分析 / 操作変数 / ジェンダー化された組織 / 性別役割分業 / 出生意欲 / 単身赴任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は日本の働き方のうち転勤制度が家族形成に与える影響を明らかにする目的がある。2022年度は、主に3つの成果があった。 一つ目は、2016年に、夫が正社員である20-40代既婚女性3000人を対象に実施したアンケートのデータを用いて、ライフコース上で生じる夫の転勤が妻の出生意欲に与える影響を反事実モデルに媒介変数を入れた媒介因果分析を用いて分析し、2度の学会発表を行った。夫の転勤は、妻の育児孤独感を上昇させ、出生意欲を低下させるものの夫のキャリアアップによる所得上昇が予想されるため、最終的には出生意欲を低めているわけではないことが明らかになった。 二つ目は、2018年に20~30代の正規雇用者2908人を対象に実施したアンケートのデータを用いて、転勤を伴う働き方の無配偶の正規雇用男女への家族形成意欲への影響を操作変数による順序プロビット分析を用いて分析し、その結果を専門誌に掲載した。転勤を伴う働き方をしている無配偶男性は家族形成意欲が高いものの無配偶女性にはその影響がなかった。女性は職場のワーク・ライフ・バランスの満足感の高い場合に家族形成意欲も高めていた。 上記、両方の結果から日本型雇用制度にある日本企業では、性別役割分業を前提にジェンダー化された組織をしており、転勤のある働き方をする男性は家族形成しやすいのに対し女性は逆に両立しやすい環境であれば家族形成しやすいと言えそうである。「転勤」を通じて性別役割分業型の家族を再生産し、ジェンダー化された組織が続いていることも示唆された。 三つ目は、上記の「無配偶正規雇用男女の転勤を伴う働き方の家族形成意欲への影響」に関する量的分析を補完する質的調査を実施した。10人に対するインタビュー調査を実施したが、ジェンダー化された組織の中での若者の家族形成意欲を深く聞き取ることができた。今後、詳細に分析し論文にする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではこれまで「夫の『単身赴任』の経験が夫婦関係に与える影響-一般化傾向スコアを用いた分析-」、「ライフコース上で生じる夫の転勤が妻の出生意欲に与える影響:反事実モデルによる直接・間接効果の測定から」、「転勤を伴う働き方が出生意欲に及ぼす影響-若年正規雇用者のジェンダー比較分析から―」を口頭または論文で発表してきた。また2021年度に日本在住の有配偶者男女10人、2022年度に無配偶者男女を対象にインタビュー調査を実施し、正規雇用者のライフコースにおいて、転勤、単身赴任の経験がどのように家族形成、夫婦・家族関係に影響を及ぼしているのかを聞き取ることができた。日本の調査については、一部まだ論文にできていないものがあるが、おおむね順調に進展している。 しかし、当初、本研究では海外調査を実施することで日本型雇用制度との比較研究を予定していた。日本型雇用制度における「転勤」とは異なるが、欧米社会においても一定数、仕事上の地理的移動が存在するためである。つまり、カップルのうち一方の仕事上の地理的移動でカップルがどのような関係性になるのか、家族形成の意思決定はどのようになるのか、その影響を調査し、日本のケースと比較する予定であった。コロナ禍によって結局、2019年度にフランスにおいて2人のフランス人女性のインタビューを実施したのみとなっている。海外との比較分析は十分できなかったが、日本でのインタビュー調査に注力し、ある程度必要なデータを収集することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
日本の転勤を伴う働き方がカップルの関係や家族形成等に及ぼす影響と欧米社会における仕事上の地理移動が同じくカップルの関係や家族形成等に及ぼす影響を十分に比較することはできなかったが、日本において量的調査、質的調査を十分に実施したことにより、今後は、量的調査の一つとして行った「ライフコース上で生じる夫の転勤が妻の出生意欲に与える影響:反事実モデルによる直接・間接効果の測定から」の論文執筆を進める。また有配偶者、無配偶者に対して実施したインタビュー調査の口頭データについては、ライフストーリー分析をし、論文執筆を進める。これら日本のインタビュー調査の分析の中で、これまで行った2人のフランスでのインタビュー調査が組み込むことができるのか、あるいは2人のインタビューが長時間であったことから2人を用いたライフストーリー分析が可能かどうかを検討する。今後は本研究における研究成果を本としてまとめられるように執筆を計画していく。
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Causes of Carryover |
次の2点の理由より、次年度使用額が生じている。一つに本研究実施当初に、海外でのインタビュー調査を予定していたが、コロナ禍で計画できず日本のインタビュー調査に重きをおくことになったためである。また一つに、学会発表した「ライフコース上で生じる夫の転勤が妻の出生意欲に与える影響:反事実モデルによる直接・間接効果の測定から」の論文執筆を英語にすることを予定していたが、次年度に持ち越しになったからである。今後、日本のインタビュー調査及び、2019年に実施したフランスでのインタビュー調査2件を分析し、論文にまとめる際に不十分な点があれば、インタビューの追加(フランス)を検討するとともに、インタビュー調査のまとめに必要な和仏翻訳、論文執筆の英文校閲等に使用する予定である。
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