2019 Fiscal Year Research-status Report
自動車メーカにおける戦前・戦時と戦後の人事労務管理の連続性と断絶に関する研究
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18K02018
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
吉田 誠 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90275016)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 労働組合 / 産業報国会 / 生産管理闘争 / 経営参加 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度については日産重工業(現、日産自動車)の戦後初期に結成された労働組合の組織化、およびその政策についての検討を行った。従来の研究においては、日産重工従業員組合の結成にあたっては職員と工員が協調して結成されたとされてきた。しかし、本研究で明らかになったのは、工員が組織化をすすめていき、結成真近となったなかで、職員側が経営者側の意向をも受けて、その組織化に介入し、職員・工員が合同する組合となったという過程である。 この過程で重要なのは、戦時下において企業ごとに設けられた産業報国会(単位産報)との連続/非連続である。従来の説では、単位産報の経験が戦後の労働組合の叢生の下地になったという指摘があるが、一方では工員側の組織化の過程を見ると産報化に対する危惧が明瞭に見てとられ、それがゆえに職員や職制の組合への参加を忌避するという動きがあった。他方で、工員側だけではなかなか組織化は進まず、結局組織力のある職制や職員の参加によってのみ結成へと辿りつくことができたというプロセスをとった。こうした意味では戦時下の単位産報で培われた職員や職制の組織化力が職員工員合同の組織化に帰結することになったことが指摘できる。また、最初期の組合の政策についても、工員側から出ていた経営参加、あるいは他の組合で行われて生産管理闘争などを余所目に、経営の民主化を工員と職員の身分差別の解消へと矮小化するとともに、会社の経営権を慮る政策、すなわち経営参加ではなく「従業員総意の会社経営への反映」とし、経営協議会も「諮問機関」という位置づけており、これらにも産業報国会との連続性を認めることができる。他方で、その後、経営協議会が運営され始めると会社経営のデタラメさが目立つようになり、組合は職員が組合員である特性をいかし、経営参加(合法的生産管理)路線へと舵を切ることになったことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度初頭での本研究については二つの方針を提示していた。一つは、自動車産業、とりわけ日産自動車の労使関係や労務管理について戦前・戦時と戦後の連続性もしくは断絶の側面を明らかにしていく研究を進めていくことである。この件については日産重工従業員組合の結成およびその方針と大きな方針転換について「日産重工業従業員組合結成に関する一考察:企業内階級和解はいかに達成されたか」および「戦後最初期の日産における経営協議会の展開:『諮問機関』から『合法的生産管理』へ」という二本の論文に結実させることができた。とりわけ、戦時下の産業報国会と戦後の企業別組合の連続性/断絶の問題について職員や職制の組織化力を高める効果があった点および経営参加に関する考え方の類似性など、これまで議論されてこなかった側面を指摘できたと考えている。第二は、一昨年度の研究成果であるドッジ・ライン期に占領軍、政府、および経営者団体等によって先任権を日本に導入しようとしていたことの発見から導き出される仮説の検証である。この仮説とは「年功」という概念の発見が1950年代半ばであるとすると、日本企業の人事労務管理における「年功」という特性は、先任権と関連して理解されなければならないという仮説である。しかし、この方面での研究については大きな進展を見ることができなかった。その理由としては、(1)第一の方面での研究が当初想定していたよりも複雑であり時間を要し、まだ検討中であること、(2)新たな仮説に基づく研究であることから多くの文献資料の収集が必要であるが、その時間がとれなかったこと、(3)当初予定していた今春における国会図書館での文献探査が新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて実施できなかったことなどがあげられる。とはいえ、科研費の研究計画書に記載していた第一の方針については適切に進めることができたので、当該評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究については昨年度同様に二つの方向性を考えている。一つは、当初の計画通り、自動車産業、とりわけ日産自動車の労使関係や労務管理について戦前・戦時と戦後の連続性もしくは断絶の側面を明らかにしていく研究を進めていくことである。日産労働組合の結成後、全日本自動車産業労働組合へと結集していく流れを、日産労働組合内部の政策の転換の延長線上にあったものとして理解する方向での研究を現在進めており、これについて論文を執筆していく。これを踏まえたうえで、戦後10年における日産の労働力編成のあり方と労使関係の展開に関するこれまでの研究成果について、総合的に整理したうえで、一冊の研究書にまとめる作業についてとりかかっていくこととしたい。 第二は、昨年度においてほとんど実施することのできなかった先任権導入に関する研究である。戦後直後の解雇基準における単純な勤続年数が先任権の影響であったとするならば、戦前から存した伝統的な「年功」制度という理解も大きく見直さざるをえない。確かに報恩概念に基づく勤続年数に準拠した労務管理や戦時動員政策の下で生活給原理を基本とする年齢準拠の賃金というのは確かに存在していた。後者については労働組合が主たる担い手として戦後も生き残ることになるが、前者については封建的であるという形で拒絶される可能性があった。しかし、それが米国流の先任権概念と接続されることにより、戦後も生き残ることになったという仮説の検討である。今次の科研費助成による研究の副産物として提起した仮説であるが、これを明らかにすることによって、本研究課題である戦前/戦後の労務管理の接続と断絶を明らかにすることにもつながるため、この方向性での研究をさらに進めることを検討している。
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Causes of Carryover |
一昨年4月より立命館大学教学部の副部長に2年間の任期で就任した。副部長は授業コマ数を2コマ減じられる激職枠であるとともに、また2019年度には教員の不祥事が発生し、春学期中はその対応に忙殺された。また、2020年2~3月に国会図書館への資料収集を計画していたが、新型コロナの感染拡大防止ということで国会図書館は休館となり、出張を予定通りに実施することができずに終わった。2020年度は新型コロナの収束が予想できないため、出張について予定できないでいるが、今年度は画像処理用の高性能パソコンの更新期にあたり、その購入に充当されることを見込んでいる。
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