2020 Fiscal Year Research-status Report
自動車メーカにおける戦前・戦時と戦後の人事労務管理の連続性と断絶に関する研究
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18K02018
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
吉田 誠 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90275016)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 経営民主化 / 産業報国会 / 生産復興闘争 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度までの研究において1946年2月に結成された日産の労働組合(日産重工従業員組合)の成立経緯を検討するなかで、単位産業報国会的な性格を強く有していたことを明らかにしていたが、これがどのような形で戦後的な労働組合へと脱皮していくかについて、その活動の軌跡を検討した。具体的には、1946年末から翌年前半期において、十一月闘争という初の「闘争態勢」を経験した日産の組合が徐々に性格変容を遂げていく過程を明らかにした。それは一方では、本部執行部を中心とした経営再建を目指す組合が政府・官公庁に対して協調路線と、吉原支部執行部の政治闘争路線という方針上の相違を生み出していた。前者は全自準備会の執行部へと横すべりし、組合内では後者が「危機突破本部」を設置し、そのなかで主導権を握ることになった。 他方、「闘争態勢」の経験は「生産闘争」を可能とする内部統制の問題を意識化させることになった。従来の会社の職制を活用した指令系統から組合独自のそれを有する必要性を認知させ、組合の自立化をもたらす組織改革が実行された。これによって産報の名残りである労使融合的な組織のあり方から脱却し、名実共に労働組合として会社から独立し、闘争を担える組織へと転化していったのである。 二・一スト中止など外部の政治闘争が困難になった中で、吉原支部がヘゲモニーを握った「危機突破」運動が進められることになった。これは経営協議会で決まった経営再建諸施策を経営陣が実行していないとして、外部に向けられていた闘争の相手を社内の経営陣と転じ、重役不信任・社長交代という「経営民主化」に結果した。この時、日産労組は依然として「労資協調」の姿勢をとっていたが、 その基盤は労使融合から労使対等へと変化しており、1946年労働協約や労使協議制を実質化するスタート地点に立つことになったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度においては研究代表者が全学の教学部副部長の職にあり、オンライン授業実施のための支援、学生・教員向けアンケート調査などコロナ禍対応の施策の企画・実施に追われるという状況になってしまい、予定していた研究時間を確保することができなかった。また、緊急事態宣言の発出等、国会図書館などへ資料を入手するための出張もままならない状況となり、資料収集も実質行うことが難しかった。
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Strategy for Future Research Activity |
3年間を予定していた本科研費の期間を1年間延長させてもらった。そのうえで、まずは既に入手してきた資料を中心に会社から自立化した日産の労働組合がどのような形で生産復興闘争を進めていったのかを検討する。そのなかで明らかにすべきは、組合が逢着した矛盾である。すなわち生産復興運動は組合員が一定の犠牲を甘受しながらも経営再建を組合が主導すべきであるとの方針であったが、それがなかなか成果を見い出せないなかで、経営再建はあくまでも会社が主導すべきであり、組合はそれに対して労働条件の改善・維持に務めるべきだとする声がランク・アンド・ファイルからはあがってくる。2021年度の研究においては、この二つの対立する方向性が1948年前後までにはどのような方針に帰結していくのかを検討することとしたい。 また、2021年度は科研費を用いてNPO法人インテリジェンス研究所のプランゲ文庫のデータベースを活用し、資料収集の幅を広げていきたい。そのうえで、新型コロナの感染状況を見きわめながら、神奈川県立公文書館、神奈川県立図書館、横浜市中央図書館、国会図書館等において引き続き資料収集を再開することとしたい。
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Causes of Carryover |
当初の予定では全学役職である教学部副部長職の任期が満了するはずであったが、急遽1年継続となってしまったことに加え、新型コロナウィルス感染の拡大があり、オンライン授業支援の策定、実施、フィードバックに対する対応等に多大な業務時間を費す結果となってしまい研究を進めることが予定よりも滞ってしまった。また当初予定していた資料収集等の出張についても、コロナ感染拡大予防の観点から自粛せざるをえず、助成金を使うことができない状況となってしまった。 2021年度については2020年度行えなかったコンピュータ、スキャンの購入、および資料収集(出張費を含む)において研究費を活用する予定である。
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