2019 Fiscal Year Research-status Report
インドにおける児童養護施設出身の若者による「家族」の想像/創造
Project/Area Number |
18K02020
|
Research Institution | Beppu University |
Principal Investigator |
針塚 瑞樹 別府大学, 文学部, 准教授 (70628271)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | インド都市社会 / 児童養護施設 / NGO / 家族 / 福祉 / コミュニティ / ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はインド社会においてストリートチルドレンを保護する児童養護施設出身の若者たちの家族のイメージ、家族関係を明らかにすることを通して、インド社会において重要な意味をもつ家族・親族というコミュニティに頼ることができない子ども時代を過ごした若者たちが想像/創造する「家族」のあり方とアイデンティティ形成における家族の意味について明らかにすることを目的としている。 児童養護施設出身の若者たちを対象とした聞き取り調査、児童養護施設におけるソーシャルワーカーへの聞き取り調査により、①若者たちの故郷の家族、②若者たちが婚姻により形成した家族、③同居・近居するケア関係にある児童養護施設出身者との関係、④児童養護施設の職員との関係、が明らかになりつつある。 ①について、若者にとって家族との関係を維持することは、家族への経済的な支援を行うことと同義である。経済的支援を行うことは若者にとって負担となっているが、同時に家族・親族に頼りにされ、アイデンティティとなっている可能性が高い。②について、婚姻により形成した家族との関係は、結婚相手の選択に家族の介入がない場合がほとんどであり、インドでは一般的にみられるジェンダー規範からは自由な対等な夫婦関係を築いている傾向にあるといえる。③について、児童養護施設出身者との関係は出身者にとって、生存の基盤としての機能を果たしているといえそうである。失業や家族の病気など、困難な場面での相互支援を行う主要な関係性を担っている。④について、職員との関係は児童養護施設と政府との連携強化による児童養護施設の運営方針の変化にともない、ネガティブなものに変化しているという見方を取っている若者が少なからずいた。以前のように、自由に出身者が施設を訪問することができなくなっているということが背景にある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は3年計画であり、当該年度はその2年目にあたる。2019年8月と2020年3月にインドで調査を行い、①児童養護施設出身の若者たちに対して児童養護施設出身者同士の関係について、②児童養護施設において家族イメージについて聞き取り調査を行う予定であったが、3月調査は新型コロナウイルスの感染拡大によりインド渡航が不可能となった。①については、8月までの調査において、データの収集を行うことができていた。②については現在準備中であり、まだ着手できていない。 児童養護施設出身者の家族のあり方について明らかにすることが本研究の目的であるが、これまでの調査において、「家族」とは別のありかたの紐帯を若者たちが重視し、かつ生存基盤として機能している可能性がみえてきた。それはNGOの関係者から成る緩やかな「コミュニティ」である。当初、研究者はNGOを中心とした関係性を、若者たちが家族に代替する「家族」的なものとして捉えているのではないかという仮説をもっていた。しかし、若者たちにとっても「家族」というイメージから想起されるのはやはり故郷の血縁関係を中心とした集団、あるいは婚姻により形成した集団であるようだ。「家族」として想起される集団とは別のものとして、NGO関係者が構成員となっている「コミュニティ」あるいは「ネットワーク」としての生存基盤が機能している可能性がある。そして、この生存基盤の存在は、「家族」という単位が意味するものの性質にも影響している。児童養護施設出身者にとっての生存基盤としてのケア関係について、「家族」「コミュニティ」「ネットワーク」の概念を用いて整理することで、ケアの単位である生存基盤としての人の集合体の現代的な有り様を提示できるのではないかと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの感染状況に左右されるため、現在のところ現地調査を行う見通しが立っていない。当初予定していた、前回分、そして2020年8月分の現地調査を延期せざるを得ないと考えている。現地調査ができるまでの間、調査を通して新たに必要性がでてきた「コミュニティ」「ネットワーク」「ケア」についての先行研究を整理する。また、現地調査の準備として、調査協力者と連絡を取り、定期的にインドの児童養護施設出身者の研究や、現地NGOの児童養護施設から自立後の若者たちの自立支援の活動について情報交換を行っている。調査を延期するにしても現地調査が今年度中に実施できる見込みで計画を立てているが、もし実現できない場合には、研究協力者に依頼して調査計画を修正し、実行できるような形での計画を立てている。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大により、インドへの現地調査を遂行することができなかったため旅費を使用しなかった。その分の調査を可能であれば今年度に延期することとする。
|