2020 Fiscal Year Research-status Report
インドにおける児童養護施設出身の若者による「家族」の想像/創造
Project/Area Number |
18K02020
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Research Institution | Beppu University |
Principal Investigator |
針塚 瑞樹 別府大学, 文学部, 准教授 (70628271)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | NGO / インド / 児童養護施設 / 若者 / 家族 / コミュニティ / アフターケア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、インド社会においてストリートチルドレンを保護する児童養護施設出身者の若者たちの家族イメージ、家族関係を明らかにすることを通して、インド社会において重要な意味をもつ家族・親族というコミュニティに頼ることのできない子ども時代を過ごした若者たちが想像/創造する「家族」のあり方とアイデンティティ形成における家族の意味ついて明らかにすることを目的とする。 2020年3月の新型コロナウイルス感染拡大に伴い現地調査を延期したのに続き、同年8月も同様の理由で調査を延期をせざるを得なかった。現地調査では、児童養護施設出身の若者の家族イメージと家族関係に関する調査を行う予定であったが、これらの調査を行うことはできていない。現地に行かずして行うことができることとして、現地の調査協力者とSNSを通じたチャット会話や、オンラインの通話によって、近況について情報収集を行った。 本研究では児童養護施設出身者の家族関係、、家族イメージ、コミュニティ形成を明らかにすることを目的としているが、これまでの調査を通じて、若者たちは児童養護施設を基盤として構築した社会関係に基づいて、選択・決定の場面に助言やアドバイスを得ているという仮説を生成してきた。児童養護施設出身者にとっての生存基盤としてケア関係に着目し、「家族」「コミュニティ」「ネットワーク」の概念を用いて整理することで、ケアの単位である生存基盤としての人の集合体の現代的な有り様を検討している。今回の新型コロナウイルスの感染拡大という状況を、児童養護出身者の若者たちは、故郷の家族や施設のボランティアである外国人を頼ったり、施設出身者同士で支援を行ったりして対処しているという情報を得ている。また、インドの児童養護施設出身者に対する福祉について、アフターケアという視点からとらえた調査・研究がなされ始めていることが先行研究を通して明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大のため、一昨年、昨年とインド現地調査を行うことができずに、参与観察やインタビュー調査を実施することができていないため、研究の進捗は遅れている。現地に行けない状況において、研究を進めるために行うことができることとして、メールやチャット、スカイプ通話を利用したインフォーマントへのインタビューや写真や動画による情報提供依頼といったことがある。主要な調査協力者とは、オンラインによるやりとりを通じて、情報を得ているがかなり限定されたものとなっている。また、今回の新型コロナウイルス感染拡大により、調査協力者の生活にも大きな影響が出ている例も少なくないため、調査を行うことが難しい状況にある。 児童養護施設出身者の家族のあり方について明らかにすることが本研究の目的であるが、これまでの調査において、「家族」とは別のありかたの紐帯を若者たちが重視し、かつ生存基盤として機能している可能性がみえてきた。それはNGOの関係者から成る緩やかな「コミュニティ」である。「家族」として想起される集団とは別のものとして、NGO関係者が構成員となっている「コミュニティ」あるいは「ネットワーク」としての生存基盤が機能している可能性である。 今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う、さまざまな困難、特に失業や所得減少といった経済的な困窮状況に対しては、施設関係者を中心とした都市でのネット―ワークや、施設への国外のボランティアといったグローバルなつながりだけでなく、農村部の親族・家族のところに身を寄せるなどして頼っている事例も確認された。これまで都市で働く児童養護施設出身者の若者たちは、故郷の家族・親族に支援を行う側であったが、今回の新型コロナウイルス感染拡大状況において、いかなる関係の変化があったのかについても今後の調査で明らかにしていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の目的としては、児童養護施設出身の若者らを対象として、家族関係の実態と家族イメージを明らかにすることで、子どもの頃に家族と離れた若者たちが、家族をどのようなものとしてイメージし、またどのような家族関係を築いているのかを明らかにすることである。家族に関する若者の意識と、家族関係について明らかにするために、若者らの家庭生活の観察や、家族に関するインタビュー調査を計画していた。そのため、本研究はインドにおける現地調査を行うことを前提として計画がなされていた。調査協力者と直接に会うことが必要であり、今回の新型コロナウイルス感染の状況が収束し、調査渡航ができるようになれば速やかに現地調査を実施する。 しかし、現時点では、現地調査の再開がいつになるのか見通すことができないという状況にあり、研究を進めるための代替的な手段を考える必要がある。一つには、現在も行っているように、可能な限り、主要な調査協力者を中心として、オンラインによるチャットや通話を通じて、インタビューを行いデータを取集することである。 二つには、現地にいる調査協力者に依頼して、インタビュー調査を行うことである。新型コロナ感染拡大の前から、施設出身の調査協力者と共同で施設出身者へのインタビュー調査を行う計画をねっていた。可能な限り、この計画を進めて調査協力者に代わりにインタビューを行ってもらうこと方法で、データ収集を目指すこととする。ただし、現在の新型コロナ感染再拡大の状況にあって、調査を行うことが難しいため、現地の状況把握に努めながら、調査協力者の状況に配慮しつつ行っていきたい。
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Causes of Carryover |
本研究は現地調査のための旅費が費用の大半を占めているが、新型コロナウイルス感染拡大状況に伴い、現地調査を延期しているために次年度使用額が生じた。現時点ではいつ現地調査に行くことができるのか見通しが立っていないが、現地調査において使用する予定である。
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