2022 Fiscal Year Research-status Report
インドにおける児童養護施設出身の若者による「家族」の想像/創造
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18K02020
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Research Institution | Beppu University |
Principal Investigator |
針塚 瑞樹 別府大学, 文学部, 准教授 (70628271)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | インド / NGO / 社会的養護 / アフターケア / ケアリーバー / 家族 / コミュニティ / アイデンティティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、デリーのNGOが運営する児童養護施設「子どもの家」(仮名)で生活した経験のある若者の抱く家族のイメージと家族形成の実態を明らかにすることを目的としている。2022年8月と2023年3月にフィールドワークを行った。また、2023年2月に国際シンポジウム「「不確実性の時代」の南アジアの社会変動 ―若者の社会対応を通じて」において、「インド都市社会における社会的養護経験のある若者のアイデンティティ形成」と題した発表を行った。 2022年8月は新型コロナウイルス感染拡大後3年ぶりのフィールドワークであったために、研究協力者である社会的養護を受けた経験のある「子どもの家」出身の若者たちのコロナ禍における生活実態について、支援をした/受けた経験を中心にインタビュー調査を行った。若者たちは収入が途絶えた間は貯金を切り崩しながら生活し、故郷に家族がいる場合には家族のもとで過ごしたり、結婚している場合には妻の親族のところに身を寄せたりした者もいた。なかには施設や施設出身者との関係が希薄/良好でない出身者もいるが、出身者の誰とも関係をもっていないという人は少なく、最も困窮した際には、出身者同士やNGOを通じて知り合ったボランティアといったインフォーマルな支援を頼っていた。しかし、NGOの食料支援など他の施設出身者に支援を受けたことが知られる可能性の高い場合、その利用を避ける事例というのが見られた。 2023年3月の調査では、出身者の家族関係と職業生活についてインタビューや仕事の様子の観察を行った。2回の現地調査とその間に行った研究発表をふまえて、出身者の家族や施設出身者のネットワークを含めた社会関係に関する本科研の調査を通して得られたデータに基づき、社会的養護を受けた若者のアイデンティティ形成について論文化する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年からインドでの現地調査を実施することができておらず研究の進捗は遅れていたが、2022年度には2度の現地調査を行うことができたため、本研究の成果としての研究発表、論文化の見通しは立ってきている。 また、現地調査ができなかった今回のような場合に研究を進める方法として、はじめての試みとして現地の研究協力者にインタビューを依頼した。2022年8月には、試験的に研究協力者と一緒にインタビューを行い、それを受けて質問紙の修正とインタビューにおける注意点を確認した。2023年3月の調査では、研究協力者が取得したデータについて、インタビューの内容と対象について再度相談し、その後インタビューを継続してもらっている。これらのデータも含めて、2022年度に得られたデータを中心として、研究発表ならびに論文化を行っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年の現地調査を通して得られたデータを中心に、これまでの本科研の調査の成果について、2023年には社会的養護を受けた若者社会関係の構築とアイデンティティ形成について論文執筆を行う予定である。論文執筆に向けて、これまでに本科研を通じて取集したデータの整理を中心に行う。2022年度の調査と研究発表を通じて、施設出身の若者の出身者としてのアイデンティティに関わって、施設出身者で構成される同窓会やNGOの理事の存在の重要性が明らかとなった。出身者にとって施設出身者のネットワーク形成が同窓会やその他どのような機会で行われているのか、これまでの調査におけるフィールドノートのデータや、調査協力者に依頼したデータを整理し分析を行う。加えて、研究協力者に追加で依頼しているインタビュー調査で得られる予定のデータについても整理し、論文のデータとして使用する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度に調査協力者に依頼している文献収集と追加のデータ収集の費用に充当するための費用として使用予定である。
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