2018 Fiscal Year Research-status Report
日本型ハウジング・レジームの形成過程に関する歴史社会学的研究
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18K02023
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
祐成 保志 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (50382461)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 住宅政策 / 家主 / 借家人 / 貸家組合 / 住宅営団 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦時期は、日本のハウジング・レジームの形成過程における画期の一つである。この時期の家主/借家人関係に着目し、これまで全くと言っていいほど研究されてこなかった「貸家組合」についての基礎的な資料収集を行った。1939年、国家総動員法にもとづく地代家賃統制令が施行された。1941年、借家法が大幅に改正され、家主(貸し手)の都合による立ち退き請求を抑制する「正当事由」の条項が導入された。家賃統制と借家権の強化は、貸家業の採算を悪化させた。零細家主たちは賃貸住宅の供給に消極的になり、貸し渋りが横行した。このため政府は厚生省に住宅課を設置し(1939年)、労務者住宅供給計画にもとづき企業の社宅建設を奨励した。さらに、政府全額出資の特殊法人「住宅営団」を創設したほか、地域ごとに民間家主を組織する「貸家組合」の設立をすすめた(1941年)。 貸家組合は、地区(警察署管轄区域など)内で貸家業を営む者の過半数の賛同を得て設立され、土地・資材の共同取得、賃貸料の共同取立、斡旋所の設置、組合員への資金貸付や債務保証を行うこととされた。施行から2年後には、全国に約300の貸家組合・貸室組合があり、組合員数は16万人を超え、組合員所有貸家は120万戸に達したという。 当時の解説では、住宅営団と貸家組合には「親会社、子会社」のような密接な関係があるとされた。ここには、民間家主を補助と規制の対象とし、民間賃貸住宅に公共的な役割を担わせるという発想がみられる。ただし、住宅営団が当初の計画から大幅に後退しつつも一定の足跡を残したのにたいして、貸家組合の実績は乏しい。貸家組合が挫折した理由は、制度を支える財政的な基盤がほとんど整備されず、家主の投資意欲が減退するなかで、道徳的教説でその空隙を埋めようとした点に求められる。このような政策の展開は、現代の住宅政策を分析する際にも重要な示唆を与える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
家主/借家人関係に焦点を定め、日本のハウジング・レジームの形成過程を社会学の観点から分析し、広い意味での社会政策との関係を明らかにするという本研究課題に照らして、家主の組織化と民間賃貸住宅の社会的市場の整備を志向した「貸家組合」の構想と挫折が、重要な位置づけにあることが確認された。他の時期の住宅政策や、同時期の他の政策との関連についての検討もある程度すすめることができたことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
国際比較と制度間比較にもとづいて研究を進める。前者については、比較対象となる社会を設定し(英国を想定している)、日本の家主/借家人関係にはどのような特徴があるのかを考察する。後者については、地主/小作人関係、経営者/労働者関係にかかわる制度と比べて、家主/借家人関係にどのような特徴があるのかを考察する。2019年度は、前期に英国に滞在しているため、国際比較に重点を置く。
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Causes of Carryover |
2018年度の途中に、当初予定していなかった2019年度の在外研究が決定した。滞在先における旅費、ならびに複数の国際学会への参加費などに充てるため、一部を次年度に繰り越した。
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