2019 Fiscal Year Research-status Report
「被爆者」から「ヒバクシャ」へ:グローバル・シンボルの生成発展過程の研究
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18K02040
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
野宮 大志郎 中央大学, 文学部, 教授 (20256085)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 被爆者 / ヒバクシャ / 原爆 / 広島 / Hiroshima |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は二つある。第一に、被爆体験をした個人を「被爆者」と呼び始めたときから、今日のグローバル・シンボルとなるまでの、シンボル化のプロセスを明らかにする。第二に、シンボルとしての「被爆者」が及ぼす影響を、複数の具体的なイベントを検証し明らかにする。ターゲット期間は「被爆者」という言葉が登場した1940年代終盤からオバマ大統領と被爆者代表との「抱擁」があった2015年までの約70年間である。 2019年度は、2018度に行ったデータの収集と基礎的な集計・分析の上に、本研究申請時に予定していた通りの研究を進めることができた。すなわち、本研究の第一の課題を達成するために、言説分析を行った。「被爆者」がグローバルな「ヒバクシャ」となるに至るプロセスには、意味転換の過程が必ず存在する。この意味転換は「被爆者」という言葉が他の言葉と連動して語られる際、他の言葉が生み出すコンテキストから影響を受けることで起きる。この意味生成プロセスを、本研究では掴み取る。したがって、言説分析の中でも、とりわけ共起ネットワーク分析を多用する。大量の言語データに対してシステマティックに共起ネットワーク分析を行うために、コンピューターを用いた解析を行った。ターゲット期間は、当初、1940年代終盤から2015年のオバマ大統領の広島訪問までの約70年間を一度に行う予定だったが、分析の過程で、二つの時代に分けたほうが良いとの判断が働き、1940年代から1980年前半までを今回の分析対象とした。中心となる言説データには新聞記事を用いた。 本年度の成果として、研究報告は2本、発表論文は3本をあげることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由 2018年度に予定していた作業はほぼ問題なく進むことができ、またアウトプットもある。しかし、所属大学の人事案件で現れた大きな問題の影響で、当初予定していた回数分ほど広島と長崎に出張が困難となった。2019年度は、この問題を解消すべく、調査地でのデータ収集と収集データの整理を精力的に進めた。この結果、申請時に予定した通り厚みのあるデータが入手でき、2018年度に問題として残った点は解消できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究申請時に予定していた方針を変更することなく研究を進める。2019年度は、本格的な分析を開始した。また、予定通り、本研究の第一の課題にアタックすることができた。2020年度は、2019年度に手掛けた第一の改題へのアタックの継続と、本研究の第二の課題である「被爆者=ヒバクシャ」が社会に及ぼした影響の解明の二つを行う予定である。第一の課題に関しては、データ・ソースを変更して新しいデータを揃え、再度分析をおこなう予定である。第二の課題に関して、被爆とモダニティの問題に足を踏み入れる。被爆者は、戦後のモダニティ・ディスコースに一定の影響を及ぼしている。それは、1945年までの日本が採用してきた西欧近代的なモダニティへの挑戦の形を取る。戦後日本の多様な言説が渦巻く言説空間を、広島を起点として観察してみたい。
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Causes of Carryover |
2018年度、学内人事で予想できなかった事態の発生により収集データ収集が当初予定量よりも少ないものとなった。その結果、2019年度に収集データの整理に使用する予定だった人件費・謝金を予定通り消化することなく終わった。
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Research Products
(5 results)