2021 Fiscal Year Research-status Report
ドイツの国籍政策と国民的自己理解の変容 ―国籍法改定後の20年間―
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18K02045
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
佐藤 成基 法政大学, 社会学部, 教授 (90292466)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国籍 / ドイツ / 帰化政策 / エスノ文化的ネーション / 国籍法改定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も昨年度同様,コロナ禍によりドイツでの資料収集ができなかった。そのため,調査研究はもっぱら日本からアクセス可能なオンライン上のデジタル情報の収集により行われた。 この研究の中心的なテーマは,2000年に国籍法が改定されて20年を経た現在,新たな国籍法の下,出生地主義の導入によりドイツの国民的自己理解(ナショナル・アイデンティティ)がいかに変化してきたのか,またその変化が国籍政策においてどのように反映されているのか明らかにすることにあった。しかし,2016年から17年にかけて複数国籍をめぐる論争があり,2014年以前の国籍選択義務復活の要求が掲げられた後(これについては,昨年,一昨年の研究実績の概要で説明した),国籍法をめぐる政治的な議論や変化はほぼ見られなかった。定住する外国人の帰化率が低いことは相変わらずであり,2015年の難民危機以後,ドイツに住む外国人の数が上昇しているにもかかわらず,この問題に関する議論や政策提言などはほとんど行われなかった(ごく一部の専門家の発言を除き)。 また本年度は,本研究が依拠するブルーベイカーの議論の前提,すなわち旧国籍法における血統主義がエスノ文化的なネーション概念と親和性を持っていたという見方を歴史的に再検討することも試みた。すなわち,1913年に純然的血統主義が採用される以前の,血統主義とドイツの国籍法の関係を,オンラインで入手可能な歴史資料を用い,19世紀前半期にドイツ諸邦において国籍が法制化されるようになった時代にまで遡って考察した。その結果,19世紀末に至るまで,ドイツにおける血統主義は必ずしもエスノ文化的ネーション概念と結びついていなかったことが明らかになった。この発見は,現在の国籍法とナショナル・アイデンティティとの関係を検討する際にも有益であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
最大の原因はコロナ禍によりドイツでの資料収集が進まなかったことによる。しかし,2020年までのドイツにおける国籍に関する政策はこれまでにほぼ把握できており,資料収集の不可能性による影響はそれほど大きくはない。
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Strategy for Future Research Activity |
現地の資料収集が困難であるとはいえ,日本からほぼ状況は把握できているので,次年度はこれまで集めた資料をもとに分析を行い,論文ないし著作の刊行に向けて努力したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によりドイツ渡航ができなかったことにより,旅費の支出がなかったことが次年度に使用額が生じた理由である。残額は図書費を中心にし支出する予定である。
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