2019 Fiscal Year Research-status Report
近現代都市における貧困の重層化プロセスと社会政策に関する歴史社会学的研究
Project/Area Number |
18K02047
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
武田 尚子 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (30339527)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 貧困 / 重層化 / 公衆衛生 / 産業政策 / 貧困調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では近現代社会において貧困の重層化が生じる要因を考察した。イギリスのヨーク市については次のような知見を得た。ヨークでは、1899~1901年にB.S.ロウントリーが貧困調査を実施し、ハンゲイト地区、ウォルムゲイト地区のスラム2地区について言及している。ハンゲイト、ウォルムゲイトはヨーク市内を流れるフォス川という小河川の両岸に位置する。ハンゲイトは標高が低く、洪水が多いヨーク市になかでも頻繁に浸水する地区であった。当時の下水道設備は排水が悪いうえ、汚水をフォス川に流していたので、浸水するハンゲイト、ウォルムゲイトの衛生状態は悪かった。ヨーク市ではコレラ流行を契機に19世紀後半には下水道の改善が進んだが、腸チフスの流行は止まず、綿密な公衆衛生調査が実施されるようになっていった。ハンゲイト、ウォルムゲイトが社会問題が集積している地区として特定されるようになったが、地形的要因もあり、洪水に起因する不衛生状態は放置されたままだった。 ハンゲイトの浸水問題を解決するにはフォス川の水深を改善して、排水を促す工事が必要だったが、ハンゲイトでそのような対策は進まなかった。ハンゲイトにはヨーク市を代表する製粉工場があり、フォス川を運河として利用し、原料を運びこんでおり、水深を保つ必要があったからである。つまり、有力企業が物流の産業基盤として利用していることが優先された。近代都市で都市内の小河川が工業用水・用地として利用されることが優先され、公衆衛生対策と一致せず、貧困地域対策は遅れたのである。 以上のように、近代都市形成の過程で、公衆衛生基盤の近代化と産業基盤の近代化は一致せず、そのような公衆衛生政策と産業政策のコンフリクトのはざまで、近代都市貧困地域が形成されてきたプロセスをヨーク市衛生局調査とロウントリー貧困調査の歴史的アーカイブに基づいて明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績の内容に基づいて、学会報告を7回、単著の著書を1冊、発表・刊行した。 さらに編著の著書を1冊刊行予定で、校正作業を校了した。
|
Strategy for Future Research Activity |
貧困地域の変容過程、重層化の実態を詳細に調査し、国際比較のデータを整える予定である。
|