2020 Fiscal Year Research-status Report
近現代都市における貧困の重層化プロセスと社会政策に関する歴史社会学的研究
Project/Area Number |
18K02047
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
武田 尚子 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (30339527)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 貧困 / 重層化 / スラムクリアランス / ヨーク市衛生局調査 / 都市再開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、イギリス中東部の都市ヨークのハンゲイト地区を取り上げ、20世紀初頭のスラム地区がどのように改善され、都市再開発の対象区域になったのか、そのプロセスを明らかにした。ヨークにおいて、スラム改善の出発点になったのは1906-08年に実施された「ヨーク市衛生局調査」である。ハンゲイトの全戸対象に衛生調査が実施され、不良住宅が洗い出され、改善計画が策定された。散発的な改善は行われたが、全域におよぶ包括的な改善は実現しないまま、第一次大戦に至った。戦後に「住宅・都市計画法(アディソン法)」が施行されたが、1920年代はミドルクラス向けの住宅供給が主流であった。 転機は第二次マクドナルド労働党政権下の1930年改正の「住宅法(グリーンウッド法)」である。これをうけてヨーク市衛生局は不良住宅調査を実施、改善命令を出した。このような対応のさなか、1933年春に洪水が発生し、対象区域は浸水した。ヨークのスラムは河川沿岸にあり、標高が低く、頻繁に浸水する地区であった。洪水を契機に、市当局はスラムクリアランスの方針を出し、土地収用(買い上げ)の準備を進めた。立ち退き対象者には公営住宅を斡旋した。 スラムクリアランス後、土地は市の公有地になった。中心部の隣接した区域に一定規模の公有地があることは有用で、現代都市開発期に再開発の対象になった。以上のように近代都市スラム地区の改善が実際に進捗するには、マクロレベルの住宅政策が確立することが重要であった。また、地形的要因による頻繁な浸水発生という不良条件を克服するには完全なスラム撤去しか方法がなかったが、これが再開発用の土地の確保につながっていったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績の内容に基づいて、雑誌論文の執筆を1編、学会報告を3回、編著の著書を1冊、発表・刊行した。
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Strategy for Future Research Activity |
貧困地域の変容過程、重層化の実態を詳細に調査し、国際比較のデータを整える予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度にコロナ蔓延のため、国内・国外での研究出張が制限されたため。
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