2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K02092
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Research Institution | Kobe University of Welfare |
Principal Investigator |
畠中 耕 神戸医療福祉大学, 社会福祉学部, 准教授 (70348126)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢上 克己 清泉女学院短期大学, その他部局等, 教授 (00329442)
石坂 公俊 高崎健康福祉大学, 健康福祉学部, 准教授 (10438757)
大塚 良一 育英大学, 教育学部, 教授 (60455011)
橋本 理子 城西国際大学, 福祉総合学部, 助教 (70567247)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 方面事業 / 軍事援護 / 報徳社 / 新興生活館 / 社会事業 / 震災援護 / 青年団 / 婦人会 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は静岡県西部を中心に史資料調査を実施した。当該年度は調査範囲を拡大し、焼津市、島田市、藤枝市、菊川市、磐田市、沼津市、富士市を調査対象とした。具体的な対象施設は、各市町村設置の図書館及び公文書館である。史資料の所在については事前に市町村史編さんの際に発行された資料所在目録から確認していた。本年度は目録を基に史資料の保存状況について調査を実施した。その概要が次の通りである。 市町村史編さん委員会が解散した後、蒐集された史資料の保存状況は各自治体によって大きく異なることが明らかとなった。島田市及び藤枝市、焼津市においては所有者に返却し、その後の所在については不明とのことである(一部所蔵状況も明らかになったが、公開はしていないとのことである)。一方で、菊川市、沼津市、富士市、磐田市においては史資料が保存されていることがわかった。また、同市の所蔵資料については閲覧・複写(デジカメ撮影)が可能で、大正末期から昭和初期にかけての社会事業行政、方面事業、軍事援護、青年団や婦人会・報徳社等の教化団体関係資料について幅広く蒐集することができた。 なお、本研究の中心的テーマが救済と教化の接点の解明である。戦後において救済行政(社会福祉)と教化行政(社会教育)は分化したが、社会事業黎明期といわれている大正から昭和初期にかけて社会事業と教化は一体の関係にあった。そしてその両者を結び付けていたのが報徳思想である。実際に静岡県においては、大日本報徳社が各種教化団体の指導的立場にあったことが史資料を読み解く中で明らかとなった。つまり救済と教化の一体化を志向したのが「報徳仕法」としての社会事業であり、それを主導したのは佐々井信太郎(大日本報徳社)であったことが明らかとなってきた。本年度は史資料調査を通して、上記仮説を検証していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」でも記したように、当該年度は静岡県東部を中心に史資料調査を実施した。当初計画では御殿場市立図書館および森町歴史民俗資料館も調査対象に含め、3月に訪問する計画であった。しかし、新型コロナウィルス感染拡大により先方から訪問時期を延期してほしいとの要望を受けて、次年度の計画とすることにした。同様の影響は静岡県内の図書館及び文書館に限られた話ではない。webcatにより他大学附属図書館の所蔵を確認して、取り寄せもしくは訪問を計画していた。しかし、多くの図書館で業務を停止している状況となった。以上の状況から当初計画に遅れが発生している。 残り1年間でこの遅延を挽回することができるか否かは、一研究者の力量よりも今後の社会的状況を考慮する必要がある。社会科学は人類の幸福に寄与すべきものであって、科学が人類や社会に優越するものではないからである。研究者の英知を結集して可能なことを優先して研究にまい進する所存であるが、状況によっては研究期間を1年間延長することも視野に入れる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究推進のための研究方法は、歴史学の成果とりわけ実証史学に依拠している。具体的には史資料の蒐集、史料批判の作業を通して史実の確定を行い、研究成果として公表する計画である。 本年度も県内各市町村に設置されている図書館や資料館、役場を直接訪問して史資料の所蔵状況を調査する計画である。これまで事前に市町村史編纂の際に発行された史資料目録から史資料の所在を把握していたが、すべての自治体が市町村史を編纂しているわけではない(熱海市など現在進行形で進めている自治体もある)。特に本年度調査対象として計画しているのが、伊豆半島である。具体的には熱海市、伊東市、伊豆の国市、伊豆市、下田市、函南町、東伊豆町、河津町、西伊豆町、松崎町、南伊豆町等を対象に訪問計画を立案したい。 伊豆半島を調査対象とするのは、単に同地域が未開拓であるということだけがその理由ではない。これまでの調査から北伊豆震災(1930年)後に展開された新興生活運動が、昭和恐慌期から戦時下にかけて県内社会事業及び教化事業に特徴的な影響をもたらしたことが明らかとなった。また、当該年度に実施した調査において、沼津市明治史料館には旧役場文書が膨大に所蔵されていることが明らかとなった。本年度は対象を伊豆全域に拡大して史資料の発掘に尽力したい。 一方で課題として懸案されているのが、実際に調査が実行できるか否かである。「現在までの進捗状況」でも記したように、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、各機関へのアクセスが制限される可能性がある。今後の社会的状況も考慮しながら計画を柔軟に見直すことも視野に入れる必要がある。史実が確定できた分野から、順次研究成果として公表していきたい。
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Causes of Carryover |
「研究実績の概要」でも記したように、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い調査計画の遅滞など当初計画に遅延が生じている。当初計画では静岡県西部(森町地区)や東部(御殿場市)を対象に史資料調査を実施する予定であったが、感染拡大にともない計画が頓挫している状況である。 以上が次年度使用額が生じた理由である。当該年度はこの遅延を挽回すべく調査を順次を実施する計画である。具体的には昨年度調査予定であった森町や御殿場市、さらには伊豆地方を対象に史資料調査を実施する計画である。こうした現地調査以外にも、全国の図書館や資料館にも視野を広げて史資料の発掘に尽力する予定である。しかし、現地主義を基盤とした実証史学の立場から現在の社会的状況を考慮すると、計画が順調に進捗するかは未知数である。社会科学(社会福祉)研究は人類の幸福を追求するのが主眼であり、調査はその手段にすぎない。今後の感染状況など社会的情勢をふまえて計画を進捗する予定であるが、状況によっては研究期間を1年間延長することも視野にいれる必要があると考える。
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