2020 Fiscal Year Research-status Report
Child poverty and inequality: investigating social justice and social policy in Japan
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18K02098
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Research Institution | National Institute for Educational Policy Research |
Principal Investigator |
卯月 由佳 国立教育政策研究所, 初等中等教育研究部, 総括研究官 (00718984)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 貧困と不平等 / 社会的正義 / 子ども / 社会政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、子どもの貧困と子どもの間で生じている不平等を削減するため、社会政策はどのような規範に基づき、どのように設計される必要があるかについて、社会的正義の観点から再検討することである。本年度は、2つの研究成果を日本教育社会学会と社会政策学会でそれぞれ発表した。また、本研究で行った先行研究レビューの成果を東京大学社会科学研究所の「高校卒業後の生活と意識に関する調査」(高卒パネル調査)のデータ分析に活かし、ディスカッションペーパーを公開した。各研究成果の概要は、以下の通りである。 (1) 実質的な機会の平等化を推進するための教育の役割と限界について、社会経済的地位の世代間連鎖に関するデータ分析の結果をもとに議論した。世代間連鎖を緩和するには教育機会のさらなる平等化が必要であることを再確認した。加えて、教育機会を平等化した場合にも残る実質的な機会の不平等については、どのような意味で所得再分配の拡大の必要性を示唆しているかについて考察した。 (2)貧困対策の目的を、全ての人が自らよいと考える生活や人生を送るための基本的な機会を享受できるようにすることと広く捉えた際に,貧困対策が機会の平等を追求することは妥当かについて検討した。ケイパビリティ・アプローチとその限界の克服を組み込んだ機会の概念に基づき、機会の平等の追求は有益だと考えられることを示した。機会の平等の推進が自己責任論を惹起し,政府の責任としての貧困対策を停滞させるという問題も指摘されているが,これは機会の定義の問題であることを示した。 (3)社会の不平等に立ち向かう意識を教育によって促進することの妥当性を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度から検討を続けてきた課題について予定どおり学会発表を行ったのに加え、新たな理論的課題についての検討にも着手できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は子どもの貧困と子どもの間で生じている不平等を削減するための社会政策について検討する上で、ケイパビリティ・アプローチから多くの示唆が得られることを明らかにした。一方で、貧困と不平等の削減やそこから派生する問題の緩和を目指す社会政策においては、ケイパビリティ・アプローチとは異なる考え方に基づく戦略の影響力も大きい。特に「積極的社会政策」や「社会的投資」と呼ばれる戦略である。今後は、これらの戦略とケイパビリティ・アプローチの違いについて先行研究をもとに検討し、ケイパビリティ・アプローチのほうが、貧困と不平等に立ち向かう上で有効な枠組みを提供することについて、さらに説得的な議論を展開することを目指す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で学会大会がオンライン開催に変更され、旅費が不要となった。旅費については引き続き不要となる可能性が高いが、その場合には英語で執筆した論文の英文校閲の費用として使用する。
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