2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K02101
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
白瀬 由美香 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (50454492)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 共生型サービス / 生活構造 / 高齢者 / 障害者 / 地域 / ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究が研究対象とする共生型サービスとは、介護保険および障害福祉サービスにおいて、高齢者、障害児者などの多様な利用者に対して、同一の事業所で一体的にサービスを提供するものである。同様のサービスは特区や基準該当というかたちで既に部分的には導入されていたが、2018年に介護保険制度および障害福祉サービスに新たなサービス類型として創設された。本研究は、この共生型サービスがいかに普及していくのかの様相を追い、課題を探ることを目的とする。 共生型サービスのモデルとなった富山県をはじめ、2019年度も引き続きいくつかの地域で高齢者・障害者向けサービスの状況について聞き取り等を行った。それに加えて、前年度に自治体から入手した介護保険および障害者福祉サービスの匿名化されたサービス給付データの分析を進めた。高齢障害者による就労継続支援サービスの利用を8年間にわたって追跡し、当該自治体では約3分の2がサービスを利用し続けていたことが明らかになった。また、ある自治体が障害福祉サービス従事者に対して実施した質問紙調査の個票データの二次分析も行った。分析の結果、共生型サービスの推進には職員の処遇改善とともに研修への支援が不可欠だと推察された。現在までに共生型サービスへの参入が予想されたほど進んでいない理由の一つは、事業者が人材面で慎重になっていることも要因であろうと推察された。 さらに、ケアサービスのありように関する国際比較の見地から、2019年1月に発表された「NHS長期計画」という、イギリスのケアサービスモデルに関する文書をもとに検討を行った。この計画の一環として「普遍的な個別ケア」という構想が示されたことは注目に値する。共生型という側面では、イギリスは高齢者と障害者のサービスを区別しておらず、包括的かつ普遍的なケアサービスが持つ可能性と課題を検討するうえで示唆に富むと考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
引き続き生活構造論や共生社会に関する文献を国際比較の見地から収集し、過去の研究成果の整理を進めるとともに、高齢者や障害者が利用するサービス状況を実証的に把握する作業を行った。日本の事例については、介護保険および障害者福祉に関連するサービスの現況について聞き取り等を行った。そのうち1つの自治体から得られた介護保険および障害者福祉サービスの給付データをもとに、年齢階層別のサービス利用実態の分析を進めた。また、ある自治体が実施した、障害者福祉サービス従事者の就業実態に関する調査の個票データを二次分析した。これらの成果は、国際老年学会アジア・オセアニア会議および日本社会福祉学会で発表した。また、海外の高齢者・障害者を対象とした社会的ケアサービスの事例として、イギリスで2019年1月に発表された新たなケアサービスモデルに関する検討を行い、社会政策学会第139回秋季大会で報告したうえで、雑誌論文として公刊した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、既に入手した介護保険および障害者福祉サービスの給付データおよび質問紙調査の個票データの分析を精緻化し、学会発表をもとにした論文を投稿する計画である。それと並行して、生活構造論や共生社会に関する文献収集と検討も国際的な見地から継続し、暮らしに即した支援の在り方に関する理論的な考察を深化させる。実地調査に関しては、2020年度は大きな制約を受けることが予想されるが、可能であるならば共生型サービスに新規参入した事業者だけでなく、従来から基準該当サービスとして高齢者・障害者の双方を受け入れている事業所へのインタビューの蓄積を行いつつ、質問紙調査の実施に向けた準備を進めたい。
|
Causes of Carryover |
2020年3月にいくつか出張を予定していたが、訪問先との調整がつかず、インタビュー調査等を実施できなかったことから残額が生じた。2020年度についても新型コロナウィルス感染症の影響により、訪問調査を実施できるかどうかは予断を許さない状況であるが、オンライン会議等のシステムを駆使してインタビュー調査を行い、代替的な情報をできるだけ収集するよう努めたいと考えている。したがって次年度使用額および2020年度請求額については、まずはオンラインによる情報収集のための機器やソフトウェアの整備費、インタビューを書き起こす逐語録の作成費として使用することを考えている。本研究課題を当初の予定通りに進められるならば、2020年度中に複数の自治体のサービス事業者やその従業員を対象として、共生型サービスに関わる質問紙調査を行う。その場合は、調査票の印刷費や郵送費、データ入力のためのアルバイト代等を支出することになる。さらに、論文執筆の際に英文校閲を利用するための費用、内外の研究動向を把握するための専門書の購入費用についても支出を予定している。
|
Research Products
(4 results)