2021 Fiscal Year Research-status Report
介護サービスの地域格差是正とエリアマーケティング手法の開発―日韓瑞の比較分析―
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18K02115
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Research Institution | Kyoei University |
Principal Investigator |
宣 賢奎 共栄大学, 国際経営学部, 教授 (90382796)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西下 彰俊 東京経済大学, 現代法学部, 教授 (80156067)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エリアマーケティング / 商圏分析 / 地域差 / 介護保険制度 / 長期療養保険制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
介護事業者のより戦略的な事業所経営を可能にする介護サービスのエリアマーケティング手法の開発を目的とし、任意に設定した特定エリアにおける介護サービスの需給状況を可視化できる分析システムである「マーケットアナライザー介護分析バージョン」を活用し、介護サービスのハフモデル分析、主成分分析およびクラスター分析手法、介護サービスの重回帰分析手法の開発に取り組んだ。本研究で示す分析手法を活用してエリアマーケティングを行うと、介護事業者はより正確な需要予測に基づく戦略的な事業所展開が可能になる。また、質の高い介護サービスの拡充に資することが期待でき、介護サービス供給の地域偏重の問題も是正される可能性が高まる。上記の研究結果を踏まえ、「介護サービスのエリアマーケティング手法の開発」という論文を執筆した。 また介護施設・事業所の経営状況と収支に影響を及ぼす要因を明らかにするとともに、政府の介護保険政策が介護施設・事業所経営に及ぼす影響度についても研究した。研究の結果、①収支差率の漸次減少、②介護施設および居住系・通所系事業所の平均収支差率が高い、③土地代が安い地域に立地、定員・訪問回数・延べ利用者数・実利用者数が多い介護施設・事業所ほど収支差率が高い、④介護職員の給与費の漸次増加に伴った給与水準の改善などが明らかになった。介護施設・事業所の収支差率に最も大きく影響を及ぼす要因は看護・介護職員1人当たり給与費である可能性が示された。介護施設・事業所の収支差率の増減と介護報酬の増減の相関はそれほどみられず、政府の介護保険政策(介護報酬の改定)が介護施設・事業所経営に及ぼす影響度はそれほど高くないが、介護報酬の引き下げと収支差率の減少には一定の関連性があることが示唆された。本研究の成果として「介護保険事業者の経営状況分析―介護事業経営実態調査結果に基づく分析―」という論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究として取り上げた介護サービスの今後の需給予測に活用できるハフモデル分析、主成分分析、クラスター分析の分析手法の開発に取り組むとともに、拡大研究として介護サービスの重回帰分析手法の開発についても取り組んだ。研究課題として、①ハフモデル分析において、分析エリア内の介護事業所の魅力値を一律「1」にし、距離だけで考えるという分析手法を提示したが、より精度の高い収益予測分析手法を構築するためには、新規事業所の吸引率に影響を及ぼす競合事業所の売上高や利用者数なども魅力値として考える必要がある。②主成分分析とクラスター分析においては、主成分分析に基づく地域クラスター分析手法を提示したが、クラスターデータの解釈が十分とは言えないので、クラスターデータのさらなる解釈に加え、クラスター分析に基づく商圏構造分析手法の開発を行うことが望まれる。③重回帰分析手法の開発においては、理論上の新規介護事業所の収益予測の重回帰分析手法の手順を提示しただけで、既存の介護事業所の売上高や要介護度別の利用者数などを用いた実証分析とそれに基づくマッピングができなかったことなどがあげれる。しかし、当初の研究計画において予定していた介護サービスの今後の需給予測に貢献できるエリアマーケティングについては、不十分ながらも分析手法が確立できたので、当初の研究計画がある程度は達成できたと思う。 また昨年同様、韓国およびスウェーデンにおける介護サービス供給の地域差を明らかにするための現地調査は新型コロナウイルスの感染拡大による渡航制限が続き、実施できなかった。国際介護政策セミナーにおける研究成果の発表を通したエリアマーケティングの有効性の検証も叶わなかった。今年度の研究課題については、令和4年度の研究において取り組むことになるが、現地調査は新型コロナウイルスの感染状況によっては実施できない可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
介護サービスの今後の需給予測に関する分析手法の開発を引き続き進める。ハフモデル(Huff Model)分析手法の開発においては、より精度の高い収益予測分析手法を構築するため、新規事業所の吸引率に影響を及ぼす競合事業所の売上高や利用者数などを魅力値として設定した手法の開発を試みる。主成分分析とクラスター分析手法の開発においては、主成分分析およびクラスター分析に基づく商圏構造分析手法の開発を試みる。重回帰分析手法の開発においては、既存の介護事業所の売上高や要介護度別の利用者数などを用いた実証分析の開発を予定している。 また昨年度までに予定していた韓国における介護サービスの供給状況と地域差の検証を続ける。新型コロナウイルスの感染拡大により実施できなかった現地調査を通して介護事業所の立地状況(韓国では都市部の雑居ビルに事業所を開設している場合が多く、住所地だけでは立地状況の把握が困難)についても精査する。現地調査は、日本における介護サービスのエリアマーケティング手法の韓国への適用可能性を探ることに主眼をおいて行う。スウェーデンにおける介護サービスの供給状況と地域差の検証も行う予定であるが、これについては研究分担者の西下彰俊教授が行う予定である。 令和4年度は本研究の最終年度(再延長)であることを踏まえ、韓国とスウェーデンの両国において国際介護政策セミナー・シンポジウム等を開催し、介護サービスの供給状況と基盤整備のためのマクロ的視点でのエリアマーケティングの有効性を検証するとともに、持続可能な長寿社会に向けた介護サービスの基盤整備に関する提言と研究報告を行う予定である。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大が終息しない場合は中止せざるを得ないと思われる。その場合は、論文の公表を通して研究成果を報告したい。
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Causes of Carryover |
(理由) 昨年度同様、新型コロナウイルスの感染拡大により、予定していた韓国の介護サービス供給の地域差に関する調査できず、研究旅費の支出がほぼできなかったのが最大の理由である。それに付随する形で、研究補助費(資料収集・データ入力等の補助)および会議費(会場借用・飲料等)の支出が少額となった。 (使用計画) 調査・研究旅費、研究打ち合わせ旅費、研究補助費、会議費などに使用する予定である。
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Research Products
(5 results)