2018 Fiscal Year Research-status Report
A study on factors that enhance the community-focused mental health services in US and common wealth countries
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18K02121
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
木村 真理子 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (00266462)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脱施設化政策 / 包括的ケアシステム / リカバリー / 統合リカバリー指向モデル / システム変革 / 精神保健福祉政策 / 当事者の関与 / 精神障害リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「脱施設化政策・地域移行を掲げて久しい日本において同政策が進展しない阻害要因を欧米先進国の政策展開事例に比して批判的に検討し具体的方策を明らかにすること」である。この問いを解明する手順として以下を明らかにする。第1に、欧米先進諸国の精神保健分野の脱施設化政策の実施過程、権限の移管、施設整備、人材の確保およびサービス提供システムの構築を含めた精神保健政策の進展過程と現在までの帰結を把握する、第2に、脱施設化政策を推進するうえでの政策理念および重視した政策モデルとは何かを明らかにする、第3に、脱施設化・地域移行政策立案および実施過程でサービスユーザーの声が専門職や医療機関、政策立案者らの意向とともに政策に反映させる仕組みがどのように政策立案過程に担保されているのかを明らかにする、第4に、今後の日本の脱施設化・地域移行の近未来予測を行い、それに伴う課題を明らかにする。 上記の1から4の研究手順のうち、2までは一定程度の道筋を示す研究成果を主として先行研究から明らかにすることができている。3については、重度の精神障害をもつ人々(SMI)の地域生活を支えるうえで必要なプログラムと政策的要素については、先行研究およびこれまでの聞き取りを含め、要素が明らかにされてきた。要素は明らかにされている一方、重要な課題がある。欧米先進国では、エビデンスに基づくプログラム成果の検証に基づいて、政策とサービスが進展していることである。一方、日本では顕著な例はあるものの、エビデンスに基づいて共通要素を抽出し、さらなる進展も求める提言やプログラム開発の方式と必ずしも踏襲してきていない。 上記を踏まえ今後、さらなる諸外国の研究成果を把握し、日本の特徴を明らかにしてゆきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の基盤を支える資料は、筆者が2017年に執筆したカナダの脱施設化の進展を示す連邦政府の保健政策と予算の推移、BC州の精神保健政策の動向、米国ウィスコンシン州のブルーリボン委員会、SAMHSA(連邦政府精神保健委員会)などをもとに、政策立案とプログラム開発に影響を及ぼしている要素を同定するとともに、上記の内容分析を進めている。 また、オーストラリアのニューキャッスル地域実践統合モデルの推進研究が、これまで同定された脱施設化、地域生活、当事者のリカバリー指向を支える専門職の養成を含む統合モデルを提示している。オーストラリアの統合リカバリー指向モデルは、これまでの欧米精神諸国における脱施化過程で開発、検証されたエビデンスのレビューをもとに構築して検証されようとしている実践研究であり、本研究に対して、今後の研究の進め方に対して示唆を与えた。 上記の研究から、政策、予算、異なるセクターの間の関係と相互作用(政府、自治体レベル(地域)、専門職、当事者)の間でのプログラムの相互性、相乗効果の予測、当事者のリカバリーを支える専門職の組織的合意と技術を用いた支援と協働体制を含む統合モデルについての計画作成、導入、実施、成果評価が今後各国で試される方向を示唆している。一方で、このモデルに対する多くの挑戦課題があることも推察できる。まず、政治体制についての課題はすでにカナダの研究で指摘されている。予算の確保、セクター間の協働、専門職の技術、リカバリー促進の理念に対して政府や専門職がどれだけコミットするのか、当事者の意識はどこまで高められているのかなどの課題が存在している。 先進諸国の動向は必ずしも一様ではないので、今後、それぞれの特色を明らかにしつつ、比較対照の視点をもって研究を進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
脱施設化の進行状況や促進要因はこれまでの先行研究から明らかにされているといえる。今後、脱施設化促進要因および政策およびサービスプログラム要素を踏まえて、総合的な成果をもたらす統合モデルおよびそれ以外のモデルについて検証を行ってゆく。同時に日本の事例を取り上げて、日本の統合モデルと呼べる事例について、資料と聞き取りを踏まえたデータ収集を行い、研究成果を示してゆきたい。 上記の現状で示した研究の進め方に対して、研究課題4については以下のように考えている。ここでの課題は、政策で当事者の地域生活促進の意図と刷新的方向、リカバリー促進の理念が明らかにされつつも、複数のセクターの相互作用と方向に対する政策上の合意(政策立案レベルの理念、専門職が示す種々のプログラム要素およびそれらから得られる成果、当事者の意向の反映とリカバリーを支援する専門職との共同体制や財源の担保等)に基づく統合モデルの提示、そして実施、さらにこの過程や実施の検証が必要とされる。4についての課題は、日本におけるモデルの検証、およびエビデンスの蓄積をどのようなデータソースから探るかである。4については、今年度、および次年度で検討する。具体的には、モデルとして想定している研究フィールドでのデータ収集、歴史的資料、実践の参与観察、キーインフォーマントに対する聞き取り、ネット上の報告資料をもとに、収集したデータの記述、主要要素の抽出とモデルの検証を含めて、研究を推進してゆく。
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Causes of Carryover |
学内業務、専門職組織の業務(国際関係業務を含む)が多岐にわたって多忙を極めたため、国際現地調査、国内現地調査の活動量を調整せざるを得ず、残高が生じた。 今後、現地に赴いてキーインフォーマントに対する聞き取り、資料収集ほかを計画しているため、使用額は十分活用できる見込みであり、特に問題はない。
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