2019 Fiscal Year Research-status Report
高齢化する社会における人びとの尊厳と生を支えあうコミュニティ・ケア実践の研究
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18K02122
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
中村 律子 法政大学, 現代福祉学部, 教授 (00172461)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 尊厳あるケア / 地域包括ケア / 高齢者 / マントルゾルフ / ビュートゾルフ / 認知症を介護する家族支援プログラム / コミュニティ・ケア / 認知症ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
2019(平成31)年度は、主としてネパールでは高齢者へのインタビュー調査の実施と分析、さらにはその補足調査、オランダでは、ソーシャルヴァイクチームに関するヒアリング調査を実施した。 ネパール研究では、2019年6月~7月にかけてネパール現地調査協力者へ依頼して「HDCCを利用する高齢者へのインタビュー調査」を実施した。調査協力の承諾を得た高齢者20名に対してデイケア利用実態、コミュニティにおける高齢者ケアの実態と高齢者デイケアセンターの役割に関する半構造化インタビュー調査を実施した。さらには8月24日~9月4日のネパール訪問中に補足調査を行った。この研究成果は、中村・古川(2020)「大震災後のコミュニティの変容に関する一考察ーネパール・パタン市I地区での共同実践・共同調査からー」『関西学院大学 社会学部紀要 第133号 古川彰教授退官記念号』(pp61-74)にまとめた。また、法政大学現代福祉学部Well-being研究会(2020 年2月13日)にて、「ネパール震災後の自立共生的コミュニティに関する研究」として報告を行った。 オランダ研究では、2019年10月10日~10月18日にかけて、ルモンド市役所にて認知症フレンドリー社会プログラムに関するヒアリング、認知症高齢者の通所施設Odensehuisを訪問し参与観察するとともにスタッフとの意見交換を行った。また、Wageningen 市役所、Renkum市役所のソーシャルヴァイクチームへのヒアリング、ユトレヒト市における介護サービス提供団体訪問、アムステルダム自由大学老人心理学科ドルース教授研究室を訪問し、介護保険改革と地域包括ケア(ソーシャルヴァイクチーム、マントルゾルフ(家族・友人関係)、ビュートゾルフ(医師・保健師チーム)、地域資源)の連携実態、介護者支援プログラムに関するインタビュー調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オランダでは、2015年介護保険改革後、地域包括ケアとして、ソーシャルヴァイクチームやビュートゾルフ(医師・保健師チーム)への期待が高まっていることについて本年度のヒアリング調査においても考察できた。ただ、自治体によって、ソーシャルヴァイクチームの相談体制などに地域間格差が生じている実態が把握できた。またルモンド市でのヒアリング調査では、欧米の中で唯一認知症フレンドリー社会構築の成果の鍵は、ソーシャルヴァイクチーム、ビュートゾルフ(医師・保健師チーム)、認知症高齢者の介護経験者と近隣者によるマントルゾルフが有機的に連携していることであると把握できた。今回のルモンド市役所とOdensehuis訪問により、2020年度の調査研究協力の内諾を得ることもできた。 ネパールでは、高齢者福祉制度や政策が十分に機能していないなか、2015年の大震災を経験し、コミュニティのなかから、高齢者が日中集える居場所への要望が高まり、その要望を受けて,各コミュニティのなかでデイケアセンターの設置が増加している。無料で看護師や医師による医療的ケアや近隣による「sewa・コミュニティ」の動きも活発化している。とりわけ、パタン市I地区のHDCCへのヒアリング調査によって、大震災後、政府主導ではなくコミュニティ主体でコミュニティ・ケアを実現させているデイケアセンターの設置や運営は、家族とコミュニティが一体となって高齢者を支援する新たな高齢者ケア、自立共生的なコミュニティ・ケアである可能性を明らかにすることができた。 以上の研究成果により、オランダ・ルモンド市のOdensehuis、ネパール・パタン市のHDCCの実態から、各々の社会的地域的基盤のもとで展開される自立共生的なコミュニティ・ケアが高齢者のQOL(生活の質)維持・向上、地域を基盤としたケア、尊厳あるケアの仕組みであるということが明確化された。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年当初から世界規模で始まっている新型コロナウィルス感染拡大により、2020(令和2年)度に訪問予定しているオランダ・ルモンド市とネパール・パタン市I地区での補足調査研究を変更せざる得ない可能生が高い。現時点では、オランダ・ルモンド市及びOdensehuisで構築されている認知症ケアやソーシャルヴァイクチーム、ビュートゾルフ(医師・保健師チーム)、認知症高齢者の介護経験者と近隣者によるマントルゾルフ(家族・友人関係)によるコミュニティの統合ケアに関するヒアリング調査は10月上旬実施予定である。ネパール・パタン市I地区の高齢者デイケアセンター(HDCC)と近隣組織によるsewa・コミュニティでの補足調査の実施については、9月上旬の予定である。コロナ災禍が収束/終息しなければ現地調査は困難であるため、その場合は、調査時期や調査手法(インターネット及びオンライン調査を行うなど研究手法)を再検討したい。 本年度の補足調査をふまえ、高齢者のQOLの維持と尊厳あるケアとしてのオランダの「ソーシャルヴァイクチーム、マントルゾルフ・ビュートゾルフなどの統合ケア」や、ネパールの「sewa・コミュニティ」に関するこれまでの実証的研究の成果をまとめる。日本、オランダ、ネパールにおける、国家(政府)、市場や家族、地域コミュニティなどのフォーマルケアとインフォーマルケアの協働の差異と特質、さらには自立共生的なコミュニティ・ケアについて考察し、それらの成果を発表する。
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