2020 Fiscal Year Research-status Report
中華圏における福祉NGOのネットワーク形成に関する研究
Project/Area Number |
18K02126
|
Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
横浜 勇樹 関東学院大学, 教育学部, 准教授 (30369615)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 移民政策 / 新移民 / 老華僑 / 新華僑 / エスニシティ / エスニックアイデンティティ / スピークマンダリンキャンペーン / バイリンガル教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、中華系の民族のネットワークとはどのようなものであるか、そしてネットワークの構成要素とはどのようなものであるかについて焦点をあて、主に下記の3点の研究を実施した。①近年のシンガポールの新移民の支援活動、②華僑・華人のネットワークについて、③シンガポールの言語政策とアイデンティティに関して、である。①については、シンガポール政府が移民政策を国家の中心事業として位置付けているなか、中国大陸などから主にエリート層の新移民の受入れを積極的に推し進めている一方、新移民とシンガポール人との間に文化や、生活習慣の違いから生じる摩擦や日常言語の使用の違いによるトラブルに対して、華僑会館が間に入る形で新移民への支援活動をおこなっていることが明らかになった。中国の同じ地域の出身である華僑・華人同士であっても、年代、経済や教育の状況、国家の移民政策などによって、さまざまな差異があることが明らかになった。②については、華僑・華人のネットワークはすでに世界中にあり、華僑・華人の所属国と中国との間に活発なビジネスを展開していると捉えられがちであるが、現実にはそのネットワークは、所属国と中国との政治や経済関係に大きく左右されるため、強固なものにはなっておらず、ある種のつくられたイメージであることに注意を払う必要があることが明らかになった。③については、シンガポールにおけるバイリンガル教育の推進とシンガポール華人への影響を考察した。その結果、シンガポールでは、英語が日常生活、教育活動の中心言語となっており、シンガポール華僑・華人は日常生活で標準中国語を使用する機会が減少していることがわかった。しかし、華僑・華人の出身地で組織化されている華僑会館では、伝統的な風習や方言を保存して、それを若い世代に伝承する活動もおこなわれていることが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によってシンガポール、香港、台湾における現地調査を実施することが非常に困難であった。調査地においても、わが国同様に感染拡大が収束する気配が見られず、調査地における安全かつ確実な調査活動を実施するために、現在、研究計画を再考しているところである。この状況においては、シンガポール、香港などの研究協力者とリモート会議を多く開催しながら、引き続き調査地との調整をおこなっているところである。この調整の結果の1つとして、オンラインを活用したインタビューやアンケート調査の実施について調査地との連携が構築されてきているので、今後の調査活動の再会に向けて動いていく予定である。また、学会発表については、昨年度は2つの国際学会に参加することができた。これらの学会発表はすべてオンラインでの開催であったが、多くの研究者から研究へのアドバイスや示唆を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の感染状況を見ながら、できる限り現地の華僑会館、同郷会館など中華街に存在する会館を中心に調査活動を実施していく。しかしながら、わが国および調査地における同感染症の感染状況には慎重に対応していく必要があるため、研究協力者とのオンラインによる情報交換を綿密に取りながら、調査施設、調査対象者を絞りオンラインによる調査を実施する予定である。具体的には、シンガポールにおいては、NGOや華僑会館を運営しているスタッフを対象にして、コミュニティにおける福祉活動の歴史、事業内容、今後の展開などについてインタビューを実施する予定である。また比較的に同感染症が収まりつつある台湾の調査活動については、可能な限り現地に赴いてNGOなどの福祉機関を対象にした調査活動を実施したいと考えるが、同感染症の状況に応じてオンラインによる調査の実施を検討していく。この点については、すでに台湾の研究協力者とオンラインでの打ち合わせをおこなっており、そのオンライン調査の実現に向けて調整中である。
|
Causes of Carryover |
本年度は、夏季および冬季にシンガポール、台湾における現地調査の実施を予定していた。また国際学会においても現地にて口頭発表をおこなう予定で予算を組んでいた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、海外への渡航が制限されたことで、これら調査活動、学会参加にかかる旅費などに大幅な余剰が生じた。 次年度においては、本年度同様に同感染症の状況を見ながら、この余剰金を使用して、シンガポール、台湾における現地調査、および国際学会へ参加、発表をおこなう予定で計画をしている。しかし、同感染症は世界各地で拡大していることから、まずは調査地における安全を確保することを最優先にして行動していく予定である。そのためにオンラインを最大限に活用した調査活動の準備と実施をおこなっていく。一方、これまでの研究成果から、さらに資料や文献を収集する必要性が生じていることから、今年度の余剰金をこれらの資料を収集することに充てたいと考えている。そのことで、より調査と研究活動をさらに進めていくことが可能と考える。具体的には東南アジア諸国の華僑・華人に関する資料、文献を収集する予定である。
|