2019 Fiscal Year Research-status Report
次社会における精神保健医療福祉システムの構築~市民社会とまちなかケアの提案~
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18K02133
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
緒方 由紀 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (50319480)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡村 正幸 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (00268054)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 精神障害者 / まちなかケア / 市民 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、後期近代における新たな価値、文化としての多様性や共生、包摂に関わる検討、その根底には近代社会の発展と共に常に内包される排除の論理をいかに克服するのかといった意図をもつものである。さらに、その社会の構成について「多元的循環型社会」の視点から「暮しの場所とその質」を問う「まちなかケア」の提案と試みにつなげていくことを視野にいれたものである。 2年目である2019年度は、理論的検討を中心に行い、そしてまちなかケアに関する研究会を実施した。まず、近代社会の転換期と位置付けられる1960年代後半からのいわゆる「政治の時代」が、その後の社会の中でいかに受けとめられ、内在化することになったのか、これまでの専門職論に対し、市民論を手掛かりに検討を行った。70年代の市民運動論、90年代の市民参加論、2000年以降の当事者論など、形態は変化しつつも強調されてきたのは生活者である市民としての側面、そこにある実践のつみあげ、やがてそれら成果として制度を動かしてきた。しかし、精神障害当事者の場合、精神医療審査会への退院請求や処遇改善に対する審査結果の現状、さらに最近の裁判例など、いまだ市民としての権利をもち得ることから疎外されている状況が確認できる。すなわちひとりの患者に対しその医療機関での治療を軸とした申し立てという権利にとどまっていることの限界である。 続いて、まちなかケアに関する研究会では、実践場面において専門職が取り扱う医療・福祉情報に関して、法的見地から個人情報保護法と情報公開、開示請求をテーマに検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していた分担研究者、連携研究者、研究協力者等との研究会を複数回予定していたがそれぞれの日程が合わずに年度末までに開催ができなかった。全体としての研究交流の場が持てなかったことにより、研究成果の方向性が確認できずに次年度に持ち越してしまった点である。 もうひとつのまちなかケアの研究会では、保健医療福祉の実践ならびに法的実務をとおして検討を行うことを目的としており、そのための準備調整に時間を要し当初の計画より開催時期が遅れ1回限りの開催となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は3年目であり、前年度に続き転換期としての後期近代における市民社会論・市民哲学としての議論を海外の動向にも着目し学際的にすすめる。 そのなかで精神衛生法、精神保健法、精神保健福祉法、医療観察法等の改正・成立に伴う公的資料の再検証を行い、精神障害者の市民としての権利回復とかかわり本人不在の問題を掘り下げていく。あわせて精神保健医療福祉の制度政策に位置づけられてきた当事者像について、臨床場面での援助者からみる利用者像(クライエント)、病む主体としての当事者像など概念の整理を行う。 さらに、ケアにかかる記録やカンファレンスの実証的課題を明らかにするための研究会も継続して開催予定である。本人・家族への情報提供にまつわる問題をとりあげ、制度的・倫理的課題として整理し今後の実践面での方向性について検討を重ねるものとする。 しかし、昨年度末からの新型コロナウイルス感染症の影響により、研究面においてさまざまな制限が生じており、当面はリモート等による研究会の実施を考えざるを得ない。そうした研究状況ではあるが、研究分担者、連携研究者、研究協力者らとの研究交流の場を確保しつつ、研究成果の方向性について検討を行うものとする。
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Causes of Carryover |
前年度当初は、研究会の開催を複数回予定していたが、日程調整が難しく旅費の予算執行が下回り、結果として使用額の大きな変更となった。 また、前年度に続き基礎研究として国内の文献研究を中心に行ったため、謝金の執行がなかったことも理由としてあげられる。 2020年度は、海外文献資料の翻訳など学際的な知見を得る機会をもつことを考えているが、新型コロナウイルス感染症の影響により、現地調査の実施が困難となることが予想され、リモート等による研究会など別途研究方法を組み立てていくものとする。
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