2022 Fiscal Year Research-status Report
次社会における精神保健医療福祉システムの構築~市民社会とまちなかケアの提案~
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18K02133
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
緒方 由紀 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (50319480)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡村 正幸 佛教大学, 社会福祉学部, 名誉教授 (00268054)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 市民社会 / まちなかケア / separate parallel track |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、精神障害者が市民としてあたりまえに生きることに制限を課してきた日本の精神保健医療福祉制度の歴史的特異性に着目し、その実態を明らかにすること、次なる社会を構築するためのしくみや要素を提示することを目的としている。2022年度は文献研究及びオンライン併用にて研究会を実施した。 まず「地域精神医療とネットワークの実際」を把握するため、A地域での精神科訪問医療ならびにACT等のとりくみに注目し、本人・家族のニーズ、地域包括ケアシステムを構築するうえでの課題について検討を行った。医療アクセスの問題(家族の代理受診のみで医療につながらない等)や地域での医療ニーズを中心とするマネジメントとコーディネートの実態が示唆された。 続いて、精神保健医療福祉制度における公共政策としての課題の形成と成立過程についての検討である。現行の精神科医療サービスの地域化は、閉じられた地域としての精神科病院の機能を維持した構造を有しており、本人が保護的存在であり続けることからの脱却の可能性、家族の位置づけ(家族からの自由と家族の自由)の見直しといった側面からの議論が必要であることを確認した。 さらに、地域コミュニティの政策動向を把握するために、自治体内分権と地域自治組織について、講師を招き議論を行った。地域自治の推進は、市民社会やコミュニティ形成において重要である。しかし地域組織が、障害者や社会的排除等に対する問題を受けとめているのかといった問いに対して、福祉の力(専門職や機関)が必要との声が現実に存在し、地域でのアドボカシーは十分でないことの示唆を得た。 これら共通しているのは、地域移行も「separate parallel track」(別々の並行の道筋)を辿っているに過ぎないということである。次年度は、こうした議論を踏まえ、市民社会とまちなかケアに関する国際比較とそれを基にした理論的整理を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究分担者、研究協力者らとの研究交流の機会は、オンライン併用により前年度よりは多くの回数を開催できた。しかし2022年度もコロナ禍の影響により、対面での調査研究に関しては先方との日程調整や計画が立てにくく、年間を通じて縮小ならびに制限をせざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は最終年度であり、これまでの議論の整理を研究分担者、研究協力者らの参画により研究会を実施しまとめを行う 前半は、制度政策を中心とした整理を行う。折しも2022年9月9日公表の障害者権利条約の対日審査結果では、精神障害者の生きる場所と強制治療の問題点が指摘されており、それら内容を精査し市民としての精神障害者が生きることについて議論の方向性を確認していく。同時に2023年度施行の精神保健福祉法一部改正にいたるまでの委員会、審議会等での議論が、現行の入院制度や非自発的治療への依存を超えるものとはなっていないことを明らかにする。また、研究協力者らと精神科医療における身体拘束裁判をとりあげ、裁判所の身体拘束の妥当性の判断、高等裁判所判決が精神医療の現場に与えた影響、裁判の中のメディカルモデルとリーガルモデルの相克といった点から、行動制限の正当性とは何か、論究する。 後半は、メンタルヘルスの対象の拡がりと地域臨床の実際、加えて臨床倫理の側面に着目し国際比較等をとおして、今後のまちなかケアと市民社会のありようについて提案を行う。
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Causes of Carryover |
2020年度以降コロナ感染拡大により、当初の訪問調査、対面での研究会実施などが難しい状況であったが、2022年度もまだ制限のなかでの研究活動となった。研究協力者らのそれぞれの所属機関での活動基準レベルの違い等により、研究会開催数をおさえることとなった。そのため謝金が予定より少なく、主に図書費、文献複写、PDF保存等にかかる支出となった。 最終年度の2023年度は、研究分担者、研究協力者らとオンライン併用の定期的な研究会を開催し、これまでの研究の総括として報告書にまとめる予定である。さらに、現場のソーシャルワーカー等に呼びかけ、地域臨床実践に関する研究会を企画している。
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