2018 Fiscal Year Research-status Report
日本・韓国・台湾の福祉意識に関する実証的な比較福祉レジーム研究
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18K02142
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武川 正吾 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40197281)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 所得再分配 / 信頼 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である平成30年度は,日本・韓国・台湾の福祉意識の比較分析の前提として,まず日本のデータの再分析を行った.2000年から2015年の反復横断調査の分析では社会経済的地位が独立変数として使われたが,信頼の変数を投入した分析が残されていた.このため信頼変数を含む平成25年と平成27年の全国調査(1200名)の再分析を行った. 2回の調査においては,人々の属性や収入や世帯構成などの社会経済的状況,社会保障の財源の負担と給付に関する意識に関する共通の質問項目が含まれている.さらに人々の信頼の程度についても,同一の質問項目を用いた測定を行っている.具体的には,まず社会保障制度の運用を担う政府・政治家・官僚に対する調査対象者の信頼の程度を尋ねている.次に社会保障制度の財源である税や社会保険料の負担者であり,同時に社会保障の受給者ともなりうる見知らぬ者も含めた他者に対する人々の信頼についても尋ねている. 分析の結果,日本においては,政府等の社会保障制度の運用の担い手に対する人々の信頼の方が,他者に対する人々の信頼よりも,社会保障の規模の拡大を支持する態度とつながることを明らかにした.そしてこの傾向は,人々の間で社会保障の規模の拡大の支持の程度が高かった平成25年1月においても,支持の程度が大きく低下した平成27年12月においても共通していた.したがって,日本において所得格差是正の実現のためには,人々の政府等の統治機構への信頼を高める取り組みを行うことによって,社会保障の財源の調達を円滑にする必要があることを示唆している. また上記の日本国内での調査のデータを用いて,格差是正に対する人々の態度についても分析を進めた.上記の社会経済的属性と格差是正という所得再分配を政府に求める態度との関係について考察に着手した.さらに韓国で日本と同様の調査を実施した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
は調査の実施にとどまった.遅れた理由の一つは,日本における人々の信頼と社会保障の規模拡大への態度との関係の分析に際して,人々の信頼の性質についての検討に時間を要した点である.また海外での意識調査については調査票の作成,実施方法などの点で検討すべき点が多く時間を要した.このため,平成30年度は韓国での調査を実施することはできたものの,結果の分析が予定より遅れた. 一方,日本での福祉意識の調査について,所得再分配の必要条件と十分条件についての福祉意識の構造を明らかにしたという点では,予定通りに進んでいる.まず必要条件について,上記のように,人々の間の信頼と社会保障の規模の拡大への支持の程度との関連を明らかにした.本研究費において福祉意識の分析の中心となっている人々の所得再分配に対する態度を考える上では,税や社会保険料という財源まで含めて負担することに人々が同意しているか,同意していないとすればなぜかを明らかにする必要がある.所得再分配の必要条件となるのが税や社会保険料という財源の負担も含めた社会保障の規模の拡大である.さらにこのような社会保障の規模拡大に対する人々の意識は,社会保障の財源の負担者や受給者となりうる他者への信頼と制度を運用している政府等への信頼によって左右されうる.よって初年度の人々の信頼の性質を区別した上での社会保障の規模拡大への態度との関係の分析は,今後の所得格差是正の可能性の必要条件を満たしているかどうかの解明という課題に資するものである. また所得再分配の十分条件である所得格差是正そのものについての日本での人々の態度の分析についてもすでにデータ分析を進めており,この点でも計画通りに進んでいるといえる.具体的には,所得格差の是正の責任を政府に求めるかどうかに関する人々の態度と上記の社会経済的属性との関係の分析にすでに着手している.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度である平成30年度の,日本国内での人々の信頼と社会保障の規模に対する人々の態度との関係の分析結果,さらには日本と比較可能な質問項目を含めた韓国で実施した社会調査を踏まえて,令和元年度は日本での調査結果の分析を継続しつつ,韓国での調査結果の分析に着手する.以上の分析の成果について,関連学会での報告を予定している.さらに台湾での調査にも着手する.まず日本国内の人々の福祉意識に関して,これまでの社会保障の規模に関するものだけではなく,所得格差是正の政府責任に対する人々の意識および現時までの推移の分析を継続して行う.次に,韓国での調査について,日本と同一の視点から,新たに共同研究者を加えて分析を行う.以上については令和元年度内での学会報告を予定している.そして日本や韓国との福祉意識の比較を行うために,両国と共通の質問項目を含めた調査を台湾で実施する. 最終年である令和2年度は,日本,韓国,台湾の福祉意識に関する調査結果の比較,さらには日本国内での福祉意識の変化の分析を行い,研究成果を発表する.まず日本国内の調査データを用いて,社会保障の規模や所得格差是正に対する人々の態度の2000年以降の変化の実態の分析成果を再検討する.また同様の観点から分析した韓国および台湾での人々の福祉に関する意識の現状についても検討する.韓国については前年度までの分析の成果を再検討し,台湾については日本・韓国と同一の視点からの分析を行う.そして以上の所得再分配に関する人々の福祉意識について,所得格差是正の必要条件である社会保障の規模拡大と格差是正の政府責任に関する意識に焦点を当てて,日本国内での変化と台湾・韓国と日本との比較を行うことによって,東アジアの後発資本主義国家(日本・韓国・台湾)での所得格差是正の今後の可能性について検討する論文成果を出すことを予定している.
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