2019 Fiscal Year Research-status Report
日本・韓国・台湾の福祉意識に関する実証的な比較福祉レジーム研究
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18K02142
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
武川 正吾 明治学院大学, 社会学部, 教授 (40197281)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 所得再分配 / 信頼 / 地域福祉 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、平成30年度に引き続き、福祉意識に関する日本・韓国・台湾の比較の前提として、これまで科研費等で実施して得られたデータの再分析を行なうとともに福祉意識とも関連の深い地域福祉の動きについても考察した。2000年から5年おきに実施した福祉意識に関する反復横断横断調査によって、社会経済的地位と福祉意識との関連についてはある程度明らかにされ、また、2000年、2005年、2010年に増加傾向にあった高福祉高負担への支持率が、2005年には反転して2000年と同水準になったことが明らかになっていた。他方、国際的な福祉意識に関する研究のなかでは、近年「信頼」という変数が注目されるようになってきたが、2010年までの調査ではこの変数が含まれていなかった。2015年に実施された調査では新たに「一般的な信頼」(身近の人々だけでなく匿名の他者も含めた信頼)と「制度への信頼」(政治や行政などの制度や、それらを担う人々への信頼)という変数が含まれた。このデータと、2013年に高齢者向け社会保障に関する福祉意識の調査データを利用して分析した結果、これら二つの「信頼」変数が、社会経済的地位変数をコントロールしても、高福祉高負担の支持率に有意であることが平成30年度における分析の結果、明らかになっていたが、この結果を投稿論文とする作業を令和元年度は主に進めた。そのため「信頼」変数に関するレビュー作業を再度行なった。これらの成果を角能氏との共著論文として『生活経済政策』に投稿し、査読結果は修正条件付き採択であったため、その修正作業を行った。これは令和2年度中に掲載の予定である。また平成30年度に韓国で福祉意識の調査を実施したが、その集計と分析を令和2年度に行なった。高福祉高負担、必要原則、普遍主義への支持率は日韓で同程度であるが、公共部門志向は韓国の方が高いなど、違いも見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
初年度において、日本・韓国・台湾の比較の前提となる日本について、「信頼」変数を含めた分析が遅れたことが響いている。平成30年度はそのため、「信頼」変数を含む論文のレビューに時間をかけざるを得なくなり、このため日本に関する論文の投稿が遅れた。また海外での質問紙調査を実施するのが初めての経験だったため、その連絡調整にも時間がかかり、このことが次年度にまで尾を引いた。さらに研究代表者が所属機関を異動したことにより、移行コストが予想以上にかかり、エフォート率が低下したことの影響もあった。当初計画とは一年遅れになるが、2019年度中には台湾調査を実施する予定でいた。そのための段取りを2019年末にはつけたが、Covid-19の影響で、その後の日本国内での作業がストップせざるを得なくなった。不幸中の幸いだが、台湾自体はCovid-19の被害が少なかったため、2020年度の早い段階で質問紙調査が実施できるはずである。
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Strategy for Future Research Activity |
Covid-19の影響で2020年度前半は国際学会を含め多くの学会が中止ないし延期となったため、現在までの研究成果の学会での報告・発表は難しいが、論文の投稿は進めていきたい。日本に関してはは所得再分配の規模と効果に関する分析を進める予定である。マクロデータによる所得再分配の規模と、最終所得の平等度に関する研究はこれまでもあったが、ミクロデータの主観的な福祉意識のうえでも両者が異なることが本研究でも確認されており、この点についての問題提起を社会福祉学会や社会学会で行なっていきたい。また韓国データに関しては、単純集計レベルでの日韓比較しかできていないので、この点については多変量解析による結果の比較も行う予定である。さらに台湾に関しては、2020年度初頭には調査が実施できる見込みであるので、これについての集計・分析を行なっていき、最終的には、日本・韓国・台湾の比較へと進んでいく予定である。西欧諸国、日本、韓国・台湾は、社会支出の急増時期が異なり、これがそれぞれの客観的な福祉レジームの相違となって現れているが、このことが主観的な福祉意識についても当てはまるか否かを確かめていくことが、今後の課題であり、そのためにエフォート率をあげたいと考えている。
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Causes of Carryover |
初年度における計画実施の遅れが2019年度に響き、その結果として2019年度の計画にも遅れが生じた。また2019年度は研究代表者が所属研究機関の異動による研究・教育の移行コストが発生したため十分なエフォートを投入できなかったことに加え、Covid-19の影響で2019年度中に実施予定の台湾調査を延期せざるを得なかった。このため台湾調査は2020年度に実施する予定である。また、日本のデータに関しても社会変動により古くなりつつあるため、簡便な形での再調査をする予定である。
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