2018 Fiscal Year Research-status Report
社会福祉実践の人間観:ガントレット恒子における「社会の公民」の論理
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18K02148
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
松倉 真理子 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (90390145)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会福祉 / 近代的個人 / 人間観 / ガントレット恒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
「自立支援」「自己決定」など、現代の社会福祉援助では、「近代的個人」としての人間観が普遍的な前提となっている。本研究は、そのような「近代的個人」としての自覚を、人々がいつ、どのようにして持つようになったのかを考察することを通して、日本社会が社会福祉を発展させるための基礎として求めた論理や価値を、先駆者らの実践と思想から明らかにしようとするものである。 2018年度は、近代社会萌芽期に教育者・社会事業家として実践した指導者の一人であるガントレット恒子(1873 -1953)に着目し、その足跡や言動を把握することに努めた。具体的には、ガントレット恒子の逐次刊行物における著述を収集・整理・目録データ化により、著述全体を見渡す作業をおこなった。 現時点で確認された700編弱の大小さまざまな著述の中で通底するのは、読者に対して啓蒙を促さなければならないという問題意識である。その問題意識はいろいろな表現で繰り返されるが、最も端的に示されたものとして「社会の公民」が挙げられる(『婦人新報』第372・379・380号他)。「社会の公民」こそ、自身も含めて市民(とくに女性)が「近代的個人」として「自立」することを模索するフレーズだったのではないだろうか。ガントレットが唱えた個人や社会のあり方を検討することは、「近代的個人」の源流を探究する手掛かりの一つになると考える。こうした作業の経過と考察の一部を学会において報告した。人物史についての調査は継続中で、年表作成作業を進めている。 また、研究課題「ヴィクトリア朝の『堕ちた女』の研究:その実態と文学表象について」との共同による収穫も大きかった。近代英国においての底辺の人々(特に女性や子ども)の暮らしや救貧の実態についての現地調査に参加することで、英国の社会福祉の論理や人間観を窺わせる文献や史資料や知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
著述のうち、逐次刊行物についての収集、整理、データ化については順調に進めることができた。人物史年表の作成については、作業を継続している。
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Strategy for Future Research Activity |
同時期に出現した婦人参政権運動と生活改善運動の機運と経緯について分析する予定である。これまでに得られた文献・資料、当時刊行された雑誌記事、ガントレットらによる著述を精読し、個人としての自覚や権利意識、新しい生活信条・スタイル・規範等の言説を抽出するとともに、参政権が必要と認識されるようになった背景、生活改善への取り組みに駆り立てた社会状況、市井の人々の生活の実態を社会福祉学の立場から考察したい。 また、ガントレットの人物史についての調査を継続する。
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Causes of Carryover |
他の研究課題への参加等の事情から、物品費支出が当初予算より少なくなったため。
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