2018 Fiscal Year Research-status Report
認知症高齢者の摂食支援に寄与する食品・食卓属性についての心理学的メカニズムの解明
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18K02193
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
木村 敦 日本大学, 危機管理学部, 准教授 (90462530)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 食行動 / 認知症 / 食卓環境 / 高齢者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は, 実験心理学と医療, 介護, 栄養学の専門家による学際研究により, 食品や食器, 食卓環境が認知症高齢者の摂取量増加に及ぼす影響とその心理学的メカニズムを解明することを目標としている. 初年度は, 当初の計画通り, 医師, 歯科医師, 管理栄養士, 調理士, 介護スタッフ等を含む学際的な研究チームを発足し, 国内の老健施設で生活する認知症高齢者を対象として,実験的な検討を開始した. なお, 介入実験の実施にあたり, 事前に老健施設と研究倫理や個人情報保護に関する取り決めを書面でかわし, 施設側の研究倫理委員会の許可を得た. 当該年度の研究計画に基づき, 認知症高齢者21名を対象として,「ソース付加」(addition of sauce)が食品摂取量に及ぼす効果を実験により検討した.ソースは食品に対して視覚的コントラストの強い高コントラストソースと、コントラストが弱い (同系色の) 低コントラストソースを用いて, ソースのフレーバーや嚥下容易性と視覚的コントラストの効果を切り分けて検討した. 実験の結果, コントラストに関わらずソース付加により摂取量が増加したこと, および高コントラストソースの方がより摂取量が多かったことが示された. これらの結果から, ソース付加の効果は日本国内の認知症高齢者の食品摂取量増加にも期待できること, そのメカニズムとしては高次認知要因よりも感覚・知覚要因の方が影響が強いことを考察した. 本研究の成果の一部は, 第24回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会で口頭発表するとともに, 現在英文論文を執筆中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度から開始した研究プロジェクトであるが, 当初の計画に基づき医師, 歯科医師, 管理栄養士, 介護スタッフ等を含む学際的な研究チームを組織し, 直ちにプロジェクトを開始することができた. また, 認知症高齢者を対象とした研究を実現する上で高いハードルとなる実験協力者のリクルートについて, 東京都内の老人保健施設の協力により, 安全面や倫理面での対策を速やかに整備するとともに, 実験に必要な物品等を早々に調達し, 施設利用者を対象とした実験データ取得を実施することができた. これら迅速な初動により, 初年度内に研究成果の発表を実現するとともに, 現在, 英文論文を執筆し国際学術雑誌に投稿準備中である. 以上から,当初の計画以上に順調に研究が進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究により, 認知症高齢者の食品摂取量向上には, 高次認知的要因よりも感覚・知覚的要因の方が強い影響を及ぼすことが示唆された. もともと今後の研究としては食品の二層化の効果を観察する中で感覚・知覚的要因と高次認知要因の相対的寄与を検討する予定であったが, 初年度の研究が計画以上に進展したことから, 当初の計画の通りこの実験を実施しても新規性の面でやや弱い可能性がある. そこで, 近年西欧の研究により食品摂取量に影響を及ぼす可能性が示唆されているプライミング現象(ジャコメッティ効果)に着目し,認知症高齢者の食品摂取量にもこの現象が影響するかを観察する中で, 高次認知要因の寄与について考察する研究計画を現在共同研究者とともに立案中である (計画段階のため, 詳細の公開は控えたい). また, ここまでの研究成果の社会還元のため, 研究成果について論文執筆を進めるとともに,自治体が主催する管理栄養士向けセミナー講演等を通じて, 当プロジェクトの知見普及に引き続きつとめたい.
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Causes of Carryover |
研究成果発表および関連研究の収集のために国際会議に参加予定であったが, 時期および予算の折り合いがつかず当該年度は見送ることとした. その分の予算を次年度以降に繰り越して, 研究の推進や成果発表に活用したい. とくに, 現在執筆中の論文を国際誌に投稿するにあたり, オープンジャーナルの場合は掲載費が高額となることから, 必要に応じてその掲載費等にあてる予定である.
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