2019 Fiscal Year Research-status Report
災害リスクの認知による高齢者の避難能力向上に関する研究
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18K02243
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
生田 英輔 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 准教授 (50419678)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 避難行動 / 水害 / 防災意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は避難行動に多様な住民側の要因が影響することを鑑み、それらを包含する避難能力という概念を基に、避難能力評価手法の確立と避難マップの避難能力向上効果を実証することを目的とする。2019年度は避難実験を実施する予定であったが、実験は延期としている。具体的に実施した項目は2つであり、1つ目は避難行動に関して個人レベルでの意識構造を明らかにする為に、南海トラフ巨大地震の津波避難を想定した調査を実施した。2つ目はフィールド実験に向けた実験室実験としてハザードマップの視点計測実験を行った。 津波避難を想定した調査では大阪市内の津波浸水が想定される地域の住民666名から回答を得ることができた。調査結果の分析から行政の想定する避難ビルへの避難より、自宅上階への垂直避難、浸水する可能性のある避難所(小学校等)への避難を想定している住民が多いことがわかった。次に津波避難には多様な要因が影響している考えられ、意識構造モデルの構築を試みた。その結果、平常時の災害意識が津波防災対策等に影響を与えている事が明らかになったが、津波発生に対する主観的生起確率は影響を与えていないことが明らかになった。また、個人の住環境の影響も大きいことがわかった。 ハザードマップは最も身近な避難ツールであるが、実災害時の短時間での活用状況は定量的に明らかにはされていない。そこで、視点計測実験で被験者14名のハザードマップ読図・活用傾向を計測した。避難経路探索初期において、マップの他、避難施設一覧、地図記号凡例の活用に個人差がみられ、被験者毎の避難経路決定に至るプロセスの違いを把握することができた。避難経路探索に用いられた情報は主にマップ、避難施設一覧、地図記号凡例であり、津波到達時間や避難の心得が記載されているテキストを活用した人はみられなかった。 2020年度は延期となっている避難実験を実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は大規模な調査を実施することができ、避難に関する防災意識構造を明らかにすることができた。本課題の目的のひとつである避難行動に及ぼす要因が把握できたため、避難計画への展開を想定している。また、実際の避難時には最も活用されるハザードマップに関して、所属機関の視点計測装置が利用できるようになった為、実験を実施した。当初計画で予定していた実験に加え定量的にハザードマップの活用状況を把握でき、有益な成果が得られた。一方、当初計画していたフィールドでの避難行動実験は延期している。以上のことより、研究全体としては成果が得られており、(2)を選択した。 2020年度は被験者によるフィールド及び実験室実験を夏季に計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
避難行動の基本となる防災意識構造も明らかになり、また避難行動で最も使われるハザードマップの活用状況についても一定の評価法を確立することができている。しかしながら、これらの成果は前者に関しては高齢者が多く、後者に関しては若年者からの導かれた結果であり被験者の偏りを解消する必要がある。今後は本研究の主目的である高齢者を中心に研究を推進する。一方、本課題で計画していた避難行動実験は、感染症対策としてフィールドでの集団での実験は最小限として、被験者の安全に配慮した視点計測実験等の個別の実験室での対応を主体とする方向で検討している。2020年度は最終年度であり、これらの成果を統合し、個人の避難能力を客観的かつ定量的に評価できる手法を確立する。
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Causes of Carryover |
当初予定していた避難実験に関して実験環境が整わず延期した為、次年度使用額が生じた。2020年度の夏季には実験環境を整え、避難実験を実施する予定である。
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