2020 Fiscal Year Research-status Report
The Possibilities of Competency-based Vocational Education in Upper Secondary Schools
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18K02269
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
岡部 善平 小樽商科大学, 商学部, 教授 (30344550)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 後期中等教育 / カリキュラム / 職業教育 / コンピテンシー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、後期中等教育での職業教育が学習者の能力形成、とくに特定の職業的スキルに限定されない教科横断的な能力の形成に対してもつ効果について実証的に検討することにある。2020年度の研究実績の概要は、以下のとおりである。 第一に、2018年度に実施したスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)の実績報告書の予備的分析、および2019年度に工業高校2校、商業高校2校を対象として実施した質問紙調査の集計結果から、労働市場、カリキュラム、能力形成の関連性に関する理論的枠組みの論点整理をおこなった。具体的には、職業学科における高校生の能力認識を「専門的能力」「対人的能力」「情報処理能力」の3側面から捉え、これらの能力の形成と労働市場との関係を、教育社会学者のD.ラフィ、L.ウィーランらの「移行システム」概念を下敷きに整理した。その結果、高校生の能力認識において、「雇用のロジック」(雇用との強い結びつきのもと具体的な専門知識や職業資格を重視)に対する「教育のロジック」(さらなる教育や訓練に必要な汎用的能力を重視)の優位の傾向が見いだされた。 第二に、上記の整理に基づき、「職業教育を通したコンピテンシー(competency)の形成過程」のモデル構築を試みるために、主に英米で進められている「アカデミックな教育と職業教育の“評価の同等性”(parity of esteem)」および「職業教育の高等教育化」に関する諸研究の整理検討をおこなった。理論的検討から、「教育のロジック」の優位という現象は、「さらなる学習の基盤としての職業教育」「準備教育としての職業教育」の可能性を示すとともに、汎用的な能力概念による能力認識の一元的な序列化という側面を含んでいることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までの進捗状況について「やや遅れている」と自己評価する理由は、以下のとおりである。 第一に、新型コロナウイルス感染予防措置によって、質問紙調査の対象校への結果のフィードバックを兼ねた追加の聞き取り調査、資料収集を一部しか実施することができなかった。調査対象校における「身に付けさせたい能力」の設定状況とその背景に関する追加調査は、これまでの分析結果全体を見直し、再分析をおこなううえで不可欠な作業であるが、上記の事情から継続的な実施が極めて困難となった。 第二に、国内外の職業教育改革に関する理論的検討の不足である。本研究の分析結果に基づいて導き出された「職業教育を通したコンピテンシーの形成過程」に関する理論仮説を、「職業教育における一般的スキルの形成」に関する諸研究、および「アカデミックな教育と職業教育の評価の同等性」に関する諸研究の成果と関連づける必要がある。とりわけ「アカデミックな教育と職業教育の評価の同等性」に関する研究の整理は、後期中等教育における多様な学習成果の評価手法の開発に向けての基礎研究として喫緊の課題である。しかし、資料の収集、読み込み等、十分な検討がおこなわれていない状態である。英米を中心に蓄積が見られる上記の諸研究に、本研究の知見を位置づけ直す作業をさらに進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況を踏まえ、分析結果を調査対象校にフィードバックする過程で、調査対象校における「身に付けさせたい能力」の設定状況、生徒の学習活動に対する評価方法の現状、職業科目と普通科目との連携の現状と課題について、聞き取りと資料収集の場を設定する。ここで収集されるデータに基づいて、職業教育を通した能力形成の現状と課題をより詳細に検討する。ただし、新型コロナウイルスの影響に伴う、調査対象校の年間予定の変更等を考慮する必要があるだろう。そのため、調査対象校と連絡をとり、状況を把握しながら、慎重に議論を重ねていきたいと考える。 さらに、「職業教育を通したコンピテンシーの形成過程」に関する理論構築とその精緻化を図るため、「アカデミックな教育と職業教育の評価の同等性」および職業教育改革に関する内外の研究の知見を再検討する。その際、職業教育の高度化に向けたカリキュラム改革研究、教育制度改革研究の第一人者である英国Leeds大学のJeremy Higham名誉教授、および共同研究者であるHuddersfield大学のKevin Orr教授に、理論構築に向けて協力を仰ぐ。両教授は本研究に関わる情報交換を通じた知己であり、協力体制の構築に問題はない。この方策についても、新型コロナウイルスの影響を考慮し、メールないしオンライン会議システムの使用を視野に入れる必要がある。
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Causes of Carryover |
次年度への繰越金が発生した理由は、新型コロナウイルス感染予防措置の影響から調査対象校での聞き取り調査および追加の資料収集の継続的な実施ができなかったため、また、全国専門学会の中止あるいはWeb開催により研究成果の発表に必要な旅費を使用していないためである。状況を見極めながら結果のフィードバックと追加の聞き取り調査、資料収集を実施する予定であり、繰越金はそのための国内旅費、必要資材の購入等に使用する計画である。
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Research Products
(2 results)