2018 Fiscal Year Research-status Report
新教育運動における自己と公共 ―「社会への開かれ」の視点から―
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18K02277
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
伊藤 敏子 三重大学, 教育学部, 教授 (20269129)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 社会への開かれ / ドイツ / 新教育運動 / 作業場 / 職業教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、新教育運動における「社会の変化の受け止め」と「社会への開かれ」の構想と帰結を検証することで、予測不可能な時代に効力を発揮する社会との関わりの在り方を教育の観点から考察することにある。考察の要としては、「自己」と「公共」の実効性ある絡みを日本とドイツの具体的事例から現代に敷衍して析出することを目指している。 11月には、ドイツにおける新教育運動における具体的事例として、ウアシュプリング学校(ドイツ・シェルクリンゲン)で作業場の活用と職業教育の推進に関わる現状調査を行った。さらに、1930年にウアシュプリング学校を創設したベルンハルト・ヘルの遺稿および草創期のウアシュプリング学校における作業場の活用と職業教育の推進に関わる史料をシェルクリンゲン資料館で収集した。ウアシュプリング学校は新教育運動の時代に設立された諸学校のうち現在もその新教育運動の精神を継承しつつ教育活動を展開するという独自性をもつが、時代の変化に対応する新たな教育戦略として職業教育を前面に押し出す方針へと転換するという独自性をあわせもつ。この転換はそのまま「社会への開かれ」への転換とみなされうるものであり、今後の考察を支える位相とみなされうる。 2月には、教育史研究図書館(ドイツ・ベルリン)で新教育運動における作業場・職業教育の特性についてウアシュプリング学校とザーレム城校に焦点化して資料の閲覧と収集を行った。両校の教育理念・教育実践の比較からは、「ターゲットとする階層および適正とみなす規模」および「付設された作業場の位置づけ」という2つの観点において顕著な乖離が認められた。これは学校教育における「社会への開かれ」の量的・質的な方向性を決定づける因子と目されるものであり、「社会への開かれ」を「自己」と「公共」の実効性という側面から考察を掘り下げるに際して注目していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、新教育運動における「社会の変化の受け止め」と「社会への開かれ」の構想と帰結を検証することで、予測不可能な時代に効力を発揮する社会との関わりの在り方を教育の観点から考察することにある。考察の要としては、「自己」と「公共」の実効性ある絡みを日本とドイツの具体的事例から現代に敷衍して析出することを目指している。 本研究における「ドイツの具体的事例」としては、先行研究から示唆を受け、当初はヒベルニア学校の調査を想定していた。しかし、ヒベルニア学校は新教育運動を継承した教育理念・教育実践を展開しているものの、現在のヒベルニア学校そのものの創設は1952年である。「社会の変化の受け止め」と「社会への開かれ」の構想と帰結を「新教育運動の時代から現代にいたるまでの変容」に注目しつつ考察するという本研究の主旨にかんがみて、「ドイツの具体的事例」については調査対象を変更することが望ましいと考えるにいたり、平成30年度の研究活動については、ヒベルニア学校に代わる「新教育運動の時代に創設され今日にいたるまで存続している学校」を模索する作業からスタートすることになった。 模索の結果、「ドイツの具体的事例」としは本研究の主旨に適ったウアシュプリング学校を調査対象とすることになった。新たな調査対象が決定するまでに半年近くを要したことで、平成30年度の研究の本格的なスタートについては遅滞を余儀なくされた。しかし、ウアシュプリング学校の教師陣およびシェルクリンゲン資料館の担当者の強力なサポートを得ることができたことで、平成30年度の進捗状況についてはおおむね当初計画していた資料収集および第一段階考察を完了することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、新教育運動における「社会の変化の受け止め」と「社会への開かれ」の構想と帰結を検証することで、予測不可能な時代に効力を発揮する社会との関わりの在り方を教育の観点から考察することにある。考察の要としては、「自己」と「公共」の実効性ある絡みを日本とドイツの具体的事例から現代に敷衍して析出することを目指している。 「社会の変化の受け止め」と「社会への開かれ」の構想と帰結を「新教育運動の時代から現代にいたるまでの変容」に注目しつつ考察するという方針に沿って、平成30年度はウアシュプリング学校における作業場活用の理念および実際に注目した資料収集と第一段階考察を行ったところである。ウアシュプリング学校の作業場活動の変容の特性としては、時代の変化に対応した教育戦略として作業場活動を職業教育と連動させるという質的転換がはかられていることを明らかにした。一方、新教育運動の精神を継承しつつ教育活動を展開し設立当初から作業場活動を重視している学校のなかには、時代の変化に対応した教育戦略として異なった方途で作業場活動を活性化させる学校も存在する。平成31年度(令和初年度)は、作業場活用を職業教育を連動させないかたちで時代の変化に対応することで成功を収めている具体的事例として、ザーレム城校における作業場活動の調査および資料収集を行いたいと考えている。ザーレム城校における作業場活動の位置づけは、平成30年度の事前調査の結果、ウアシュプリング学校にける作業場活動の位置づけと鮮やかなコントラスを呈している。作業場活動の変容の背景をなす理念形成に関わる史料を閲覧し、さらに現時点における作業場活動の実態に触れることで、「自己」と「公共」の実効性という側面から「社会への開かれ」のメカニズムを掘り下げて考察していきたい。
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Causes of Carryover |
(理由)本研究におけるおける「ドイツの具体的事例」として当初予定していたヒベルニア学校の調査をウアシュプリング学校の調査に変更したため。 (使用計画)2018年度に調査したウアシュプリング学校と比較考察することを目的として2019年度に実施するザーレム城校の調査に使用する予定である。
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