2018 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アイルランドにおける公教育の宗派化に関する社会史的研究
Project/Area Number |
18K02288
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
岩下 誠 青山学院大学, 教育人間科学部, 准教授 (10598105)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | アイルランド / 教育史 / 国民学校制度 / アイルランド国教会 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の目標として設定したのは、(1)関連する先行研究の渉猟と読解、(2)1831年以降に成立する国民学校のうち、「私設公営学校(non-vested school)」および制度から「除籍(struck off)」された学校の数量的把握、(3)国民学校制度に対抗してアイルランド国教会によって設立された「教会学校協会」に関する予備的史料調査であった。 (1)に関しては、予定通り先行研究を収集・読解したほか、それらの作業をもとにイングランドとアイルランドの公教育制度の比較を含む論考を『教育学研究』に発表した。これは、公教育をめぐる国家と市民社会の関係性に関してイングランドとアイルランドの同一性と差異の双方を示すとともに、市民社会や民主主義による公教育からの排除の構造を明らかにした点で、教育史上の意義があると考えられる。 (2)に関しては、アイルランド国民教育委員会の年次報告書を中心に、1850年前後までの数量的把握、および除籍学校のリストアップを行った。両者はともに、国民学校制度の運営の実態を明らかにするための作業であり、これまで十分に解明されてこなかった数量的・基礎的なデータをまずは構築するという意味を有する。 (3)に関しては、ダブリンの教会代表団ライブラリーでの史料調査を行い、教会教育協会の年次報告書および議事録を中心に、教会学校・生徒数、教員数、予算などの数量的把握を、1866年段階まで行った。これは、国民学校制度と対抗しつつも結局は縮小し、失敗に終わったとされるアイルランド国教会系の民間教育振興任意団体が、いつ、どのような理由で活動を縮小させていったのかに関する手掛かりを提供していると考えられる。 なお、当該年度には史料調査と同時にダブリン・シティ・ユニバーシティのブレンダン・ウォルシュ教授と面談し、研究期間中の在外研究の受け入れについて許諾を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)先行研究の読解、精読と理論的考察に関しては、イングランドとの比較という文脈においてではあるが、研究の成果を反映した論文を発表することができた。 (2)除籍学校に関しては、当初、アイルランド国立公文書館所蔵の教育行政文書にのみ記載されていると想定していた除籍学校のデータが、アイルランド国民教育委員会の年次報告書に1836年より記載されていることが判明し、除籍学校のリストアップが極めて容易となった。その結果、この点に関しては、研究は当初予定していたよりも順調に進展した。 (3)「私設公営学校」の導入経緯やその後の数量把握に関しては、1848年に報告書にはじめてnon-vestedという区分が導入されたことは突き止めたものの、その経緯や、それ以前の行政処置とどのような連続性や転換があるのかは、いまだに解明されていない部分を多く残している。 (4)教会教育協会については、残念ながら、議事録や教会年次報告書からはおおまかな動向を知るにとどまり、活動が縮小する局面を具体的に知ることができなかった(閲覧を予定していた史料が、教会代表団ライブラリーに存在しないことが判明したこともある)。 (5)研究期間中に予定していた在外研究の受け入れ先については、前述のとおり、ダブリン・シティ・ユニバーシティのブレンダン・ウォルシュ教授から受け入れの許諾を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下のように研究を推進していく予定である。 (1)先行研究に関しては、継続して文献を収集し、精読を進める。特に1840年代から50年代のアイルランド教育行政史に関しては、集中的に文献を収集する。 (2)私設公営学校に関しては、引き続きアイルランド国民教育委員会年次報告書から数量的なデータを抽出して通時的な変化を明らかにするとともに、1848年に正式に「私設公営non-vested」という区分が導入される以前に、いかなる行政的な措置の変遷があったのかを、国民教育委員会関係文書およびイギリス議会文書等から明らかにすることを目指す。 (3)除籍学校に関しては、報告書からリストアップした学校のうち、とりわけ国民学校設立者と地域との葛藤や対立関係によって認可を取り下げた事例について、アイルランド国立公文書館の行政資料と照合し、より詳細な事由を解明する。2019年8月に、ダブリンでの史料調査を予定している。 (4)教会教育協会については、これ以上教会代表団ライブラリー所蔵の史料から実態を追っていくことがかなり困難であると判断し、アイルランド国立図書館所蔵の刊行史料などを用い、言説面から国民教育委員会と協会との関係性の変容を追跡する方針へと転換することを試みる。
|
Causes of Carryover |
予定していた謝金を使用する機会がなかったため(先方が固辞されたため)、その分を物品費に充てたが、少額ではあるが残額が発生した。この残額は、次年度以降も、研究に関する相談や助言のための謝金として使用する。
|