2019 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アイルランドにおける公教育の宗派化に関する社会史的研究
Project/Area Number |
18K02288
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
岩下 誠 青山学院大学, 教育人間科学部, 准教授 (10598105)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | アイルランド / 国民学校制度 / 宗派化 / 教育史 / 公教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度では、研究計画にしたがって、次のような研究を行った。(1)資料・史料蒐集:関連資料の蒐集およびアイルランド国立図書館・公文書館での史料調査を行った。(2)研究交流:ダブリン・シティ・ユニヴァーシティのブレンダン・ウォルシュ博士と面談し、研究への助言を得たほか、2020年度における在外研究の打ち合わせを行った。また、国内における学会、研究会に参加し、研究者との交流・助言を得た。(3)学会発表:教育史学会第63回大会において、「アイルランド国民学校制度の宗派化に関する一側面―私設公営学校(non-vested school)の導入と展開」と題した報告を行った。これが、当該年度の主要な成果である。これは、学校建築費を百パーセント地方負担で賄う代わりに、宗教教育への規制が緩和される特別な種類の学校(non-vested school)が、いつ、どのようにして制度のなかに導入されたのかを実証的に明らかにするものであり、アイルランド国民学校制度の宗派化の起点を解明したという学術的意義がある。その他、比較教育社会史研究会で報告を行ったほか、東京大学で開催されたWorld Education Research Association 2019のシンポジウムGender and Transnational Perspectives in the History of Educationで司会を務めた。(4)雑誌、図書:教育史理論やヒストリオグラフィに関わる複数の論文を発表した。これらは、間接的に、本研究の主題を教育史学史上に位置付けるための作業としての意義も持つ。そのほか、共訳者とともに、20世紀ヨーロッパ子ども難民史の翻訳を出版した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)先行研究に関しては、継続して文献を収集し、精読を進めることができた。その成果の一部は、当該年度に発表した、ヒストリオグラフィや教育史理論に関する論文にも反映されている。 (2)私設公営学校に関しては、アイルランド国民教育委員会年次報告書から数量的なデータを抽出して通時的な変化を明らかにするとともに、1848年に正式に「私設公営non-vested」という区分が導入される以前に、いかなる行政的な措置の変遷があったのかを、国民教育委員会関係文書およびイギリス議会文書等から明らかにすることができた。この成果は教育史学会第63回大会において口頭発表することができた。現在、口頭発表時での質疑応答やディスカッションの内容を反映させるべく、論文化を進めている。 (3)国民学校制度から除籍された学校に関しては、現在、1851年までのおよそ1200件のリストアップを終えている。ただし、さらに研究を進めるためには、これらの報告書からリストアップした学校のうち、単純な統廃合ではなく、公権力との衝突や公権力の介入によって除籍した(あるいは自ら除籍=離脱した)学校をさらにリストアップし、それらの学校をアイルランド国立公文書館の行政資料上の記述と照合する作業を行わなければならない。これに関しては、まだリストの絞り込みができておらず、照合作業がやや遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、所属機関から在外研究の許可を得たうえで、ダブリン・シティ・ユニヴァーシティ(DCU)に在籍し、ブレンダン・ウォルシュ博士を受け入れ研究者として在外研究を行うことを予定していた。しかしながら、2020年3月以降、コロナウィルスのパンデミックにより、同年3月末、ウォルシュ博士より、4月からの受け入れは不可能であり、延期してほしい旨、連絡があった。したがって、研究計画は変更を余儀なくされている。 現在(2020年4月)のところ、受け入れ予定機関であったDCUおよびダブリン、アイルランドの状況と日本の状況の双方について情報を収集しつつ、状況の好転を待ち、受け入れ可能となった場合には、その時期より速やかに在外研究を開始する予定である。 ただし、当面のところ、在外研究はもちろんのこと、史料調査その他のために海外渡航する可能性もほぼ絶たれている。したがって、2020年度中には在外研究はもちろんのこと、アイルランドを訪れて史料調査を行うことも不可能であると仮定したうえで、次のように今年度の研究計画を変更する。(1)デジタル・アーカイヴズを中心として、日本国内で、長距離の移動をせずに行うことのできる史料・資料蒐集を行うと同時に、(2)その詳細な読解を行うことを中心に、差し当たって研究計画を変更することとする。(3)前年度に学会発表を行った主題については、2020年度に論文として刊行することを目指す。(4)ウォルシュ博士が準備している論文集への寄稿を準備する。このため、計上していた旅費予算を縮小し、資料・史料購入費および英語論文の校正費用等に予算を振り向けることにする。
|