2019 Fiscal Year Research-status Report
学校の戦後史に関する基礎研究:新たな戦後教育史叙述に向けて
Project/Area Number |
18K02302
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
木村 元 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60225050)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 公教育 / 学校の境界線 / ケア / 夜間中学 / 朝鮮学校 / 定通教育 / 職業教育 / 生活指導 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年につづき、これまでの蓄積をもとに、(A)教育を保障する枠組みと(B)教育を保障する教育内容について、公教育という括りの境界線とその内容である普通教育の境界線を明らかにしようとした。そのために、夜間中学、朝鮮学校、工業高校、定時制高校、通信制課程の諸学校、さらに中学校を中心とした生活指導、技術教育の領域の共同研究者がそれぞれ検討を深めた。必要に応じて申請者と各担当者の個別の研究会を開き、調整を行った。 (A)では、「公教育を保障する境界線」という枠組みで、公教育の範囲に注目した。夜間中学を対象に、学校教育か教育保障かにつながる問題に焦点をあて、公教育保障とはどういう形でなされるかについて調整した。さらに、定通教育を構成する定時制高校、通信制課程の展開をみながら、学校の境界線の広がりと外部との関係を捉えた。また角度を変えて、朝鮮学校を対象に国家・民族に注目しながら教育を保障する対象を考察した。(B)では、「どのような教育をどこまで保障するか」という枠組みで、普通教育の内容に目を向けた。加えて、生活指導、技術教育、工業高校での教育を対象に、政治(自治)、技術教育・職業指導、専門教育などのカテゴリーを検討した。これらを通して、本格的に公刊の準備の作業に入った。 さらに、学校の境界線におけるケア研究として日本保健医療福祉連携教育学会の機関誌に医療と教育とのペダゴジックな関係の比較考察を行った。専門職間の境界線の緊張関係を理論的に押さえる基礎作りの一環として位置づく。 この間の研究の基礎資料の整理を開始すべく、学校から職業への移行に関する資料の収集、整理に当たった。学校から仕事への移行関係の国民レベルでの成立をさぐるために、戦前・戦後をまたがる視野を持って資料群を編集すべく、1930年代から戦後改革を経て60年代にかけて醸成されてきた進路指導の基盤を捉えるための資料を対象とした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1970年代までの時期内の公教育制度の課題に対応するため、公教育、普通教育、義務教育、並びに学校という枠組みがどのような内実を持って実際に機能していたのかを中等教育レベルで捉え研究全体の仮説的な構図を作り上げたうえで、それに応じて各担当の対象研究を深めるために、個別ならびに集中的な議論を行うことができた。その結果、学校の境界線に注目した1970年代までを対象とする学校史研究を刊行する運びになり、最終段階での出版社との調整も含めて時間を費やしてしまったが、令和2年度の刊行の見通しは立っている。 並行して進めてきた日本の草創期ともいえる学校から仕事への移行を対象とした資料集については、繰り返し研究会を開催し、資料の収集を精力的に展開し資料の整理にあたってきた。新型コロナ感染症の流行が社会問題化してきてからは調査がキャンセルとなるなど予定に狂いが出てしまったものの、骨子ができあがり調整の段階に入ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
モノグラフの刊行に向けて準備を進めながら、戦後の教育史のこれまでのドミナントストーリーとの関係で位置づけを行うとともに、細部を詰めながら全体の調整を行う。それを踏まえて、新たな教育史叙述のための第一段の基礎研究としてまとめられるように相互の連絡を取りながら検討を深める。 同時に、上述の作業を踏まえより精緻な第二段階に向けての研究をスタートさせているが、当初の計画通り技術教育、進路指導関係の基本資料の収集、整理を本格的に進め、本研究対象の周縁の学校の歴史的な位置づけをマクロな視野のもとより明確にしていく作業を継続する。これまでの資料を整理しながら発掘を進め、具体的には、日本の草創期ともいえる学校から仕事への移行に関する資料集について、精力的に取り組み、以下の3部構成で資料を収集し整理を行う予定である。1)<学校から仕事への移行>の母体ともいえる日本の学校の制度的基盤や性格を押さえる基本資料を配する。学校と社会との関係がどうあるか、<学校から仕事への移行>という課題がその中にどのように埋め込まれているかを確認するものであり、戦後の学校と社会の接続の形成に関する審議会関係資料も含めて検討を行う。2)学校から仕事への移行をどのように牽引しようとしたか。制度的な枠組み、さらにそのモデルを提示する学校の資料、ならびに社会の変動に対して独自に対応した学校の営みが分かる貴重な資料を収集する。3)各期の教科書ならびに学校から仕事に関する重要な諸雑誌を収集したものを整理し、資料集としての形を整える。 さらに、これらを踏まえて、日本の学校におけるペダゴジーの展開史を構想する。
|
Causes of Carryover |
本年に入りコロナ感染症の流行により資料整理並びに旅費の執行が計画通りに進められなかったことが主たる理由である。2020年度にはアルバイト人員を補強するなど資料の整理に力点を置きながら本年の遅れに対応する。
|
Research Products
(6 results)