2021 Fiscal Year Research-status Report
教育および教育行政の「独立」「中立」性に関する系譜的研究
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18K02312
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Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
荻原 克男 北海学園大学, 経済学部, 教授 (70242469)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 教育行政 / 教育の政治的中立性 / 教権の独立 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,1940年代の戦後教育改革期を対象として,教育の「独立」概念について検討を行なった。同時期においてそれはしばしば「教権」の「独立」という言葉で,しかも教育行政制度の基本的なあり方に関わるものとして議論されていた点に特徴がある。「教権(独立)」という言葉そのものは,戦前においても民間や個人の思想という形では表明されていたが,国家法制としての制度化という文脈で本格的な議論がなされたのは1945年以降が初めてである。 具体的な作業として,第1に日本国憲法から教育基本法までの立法過程における「教権」「独立」という言葉の出現を追跡した(国会会議録)。第2に,同じく教育刷新委員会における議論におけるそれらの発言について分析した。これらの過程で,憲法上に教育権条項を置くことの関連から,当時の政府(文部省)内で「教権」の「独立」という理念の制度化がどのように構想されようとしていたか明らかにした。この構想の具体化において重要な役割を果たしたのが,田中耕太郎である。そこで第3に,同時期にあって文部大臣の地位にあり,かつ「教権独立」論について独自の思想を抱いていた田中の関連著作資料を収集し,検討を行った。田中の「教権」「独立」論は,その理念上の位置づけと具体的な制度構想との間に溝が存在するが,その一見した矛盾とみえるものは,田中の思想の内在的検討から一定の整合的理解が可能になるのではないかとの見通しをえた。 ただし,以上のいずれも不十分な作業状態にとどまっており,今後引き続いての検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
計画では,戦後教育改革期(1940年代後半)における「教権」の「独立」概念をめぐる言説・制度・政策の分析を行う予定であったが,国会や教刷委の議事録など,ごく限られた検討作業を行うにとどまった。コロナウィルス感染状況による資料所蔵機関の利用制限や移動制限および本務校での管理業務との関連で,在京の資料館(国立公文書館,国立教育政策研究所教育図書館等)への出張調査を一度も実施できなかったことが大きな痛手であった。この資料調査は一昨年度から引き続いての懸案事項であったが,結果として今年度も未達成となってしまった。 また当初計画では,本年度が最終年度となっており,研究の取りまとめと総括を行う予定であったが,その実現にはいたらなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況が計画よりも大きく遅れているため,研究期間を1年延長することにした。次年度では,以下の作業を行う。第1に,昨年度までの懸案課題であった1940年代の分析を引き続き行う。ただし,昨年度と同様に東京への出張調査が実施できない場合もありうるため,在京資料だけに依存しない形での研究戦略・方法をも考慮する(資料集・雑誌・議事録などの既刊資料やオンラインでアクセス可能な資料群を中心とした分析)。第2に,教育の「中立」「独立」性の変容過程,継起関係を通覧することで,試論にとどまるにせよ,一定の視点からの概念整理を試みたい。
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Causes of Carryover |
進捗状況欄に記したように,在京の史資料所蔵機関への出張調査を実施できなかったため,その経費分が未使用になったことが主な理由である。次年度は昨年度行えなかったこれら出張調査をぜひ実現させたい。昨年度は,管理業務との兼ね合いで日程調整が困難をきわめたが,次年度はそのような制約状況は大幅に緩和されるため,調査実施の可能性は高いと期待される。
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