2021 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおける地域教育政策の展開と教育共同体の創造
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18K02352
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Research Institution | Shigakukan University |
Principal Investigator |
岩橋 恵子 志學館大学, 法学部, 名誉教授 (70248649)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス / 地域教育政策 / 地域教育計画(PEDT) / 教育共同体 / 学校と地域の連携 / 民衆教育 / アソシアシオン / 修学リズム |
Outline of Annual Research Achievements |
フランスにおける地域教育政策と教育共同体の今日的段階を、これまで地域教育政策の重要な柱である修学リズム改革を中心に考察してきた。なかでも2013年から全国で展開された地域教育計画(以下PEDT)が、①学校教育内外の教育的連続性の追求、②課外活動の公役務性の認知と拡大、③市町村の総合的地域教育計画による教育共同体づくりの志向がみられることを指摘してきた。そうした評価は、2018年の政権交代によってPEDTが市町村判断による任意制へと政策変更され約8割の市町村がPEDTを中止ないし廃止したことで一見否定されたようにもみえるが、廃止に至った経緯分析から、実はPEDTの①~③の意義そのものが否定されたのではなく、PEDTの進め方の不備に問題があったことを実証的に明らかにしてきた。 だが、その進め方の不備を克服する道筋をどこに見いだすことができるのか、この点については未だ解明するには至っていなかった。それは本研究の課題である教育共同体の方向性をどこにみいだすかという問いでもある。したがって2021年度はこれまでの事例研究を再精査しこの点を中心に検討した。その結果、次のような仮説を得るに至った。 まず第1に、多くの市町村でのPEDTの廃止の背景には、学校教育と市町村の連携が十分に機能しない、場合によっては対立する状況が見られること。第2に、PEDTを継続し機能させている市町村においては、地域における民衆教育アソシアシオンが市町村と学校教育を繋ぐ役割を担っていること。第3にそうした市町村においてPEDTは、民衆教育のもつ多様性に支えられた教育のプロジェクトづくりを実施することによって、地域教育共同体づくりの有益なテコとなりえていると考えられることである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、フランスにおける地域教育共同体の形成の視点からの地域教育政策の現状と課題の解明にあるが、その主たる研究方法は、現地(フランス)調査を基本とする実証研究である。だが、2020年度に続き2021年度もパンデミックのため、現地調査に実施できなかった。日本国内においても渉猟可能な資料を読み進め、現地情報をメール交信やインターネットで得ることによって、一定の研究を進め新しい視点の発見もあったものの、当初予定してた課題解明に至ることはできなかった。しかしながら、パンデミック禍においても調査対象者・機関との連絡は継続しているので、渡航が可能になれば受け入れてもらえることになっており、その準備も整っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、近年ようやく誕生したといえるフランスの地域教育政策の「生成」と「今日的展開」の歴史的意味の実証的解明にある。「生成」についてはすでに明らかにし学会紀要などで公表したが、今日的展開の実証的研究については、2020-2021年度がパンデミックのため現地調査が実施できず、ほとんど進めることができなかった。したがって2022年度は、2021年度の計画を実施することを中心に、次のように進める。 1)フランスにおける教育共同体が、「学校」教育共同体を超えて、「地域」教育共同体づくりを進める次の事例に焦点をあて、その歴史的・地域的背景、教育理念・実践、組織運営の分析を通して、地域教育共同体創造の展開過程を解明する。その際、とりわけ民衆教育アソシアシオンが学校と市町村との連携における位置に着目する。①ガイヤック市町村連合:教育アクター(教員、アニマトゥール、父母、アソシアシオン、市町村議員など)の学び合いと協議によって2019年に策定された地域教育計画(Projet Educatif Communautaire)の実施状況・課題 ②トゥールーズ市:教育アクターによって実施されている教育議会(Parlement Educatif)の展開と民衆教育アソシアシオンの関わりを柱とする地域教育計画の実施状況・課題の解明を図る。2)3年間の研究成果を踏まえて、地域教育政策の誕生と展開と、国民教育および民衆教育(アソシアシオン)の関係について分析する。3)その上で最終的に、地域教育共同体と地域教育政策形成との関連構造の解明(フランス地域教育政策は、共和国モデルに包摂される固定された静的なものでなく、一方で共和国モデルと地域教育共同体、他方で国家とアソシアシオンの間の緊張関係の交差点に動的に位置付くとする仮説の検証)の理論化を図る。4)本研究のまとめとして最終報告書を作成し公表する。
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Causes of Carryover |
2021年度はフランス現地調査を計画していたが、パンデミックのため渡航できず調査不可となった。そのため、調査は延期とならざるをえなかった。すでに調査のための準備はできており、2022年度には是非実現したい。
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Research Products
(2 results)