2018 Fiscal Year Research-status Report
歴史的転機としての「二・四事件」に関する総合的研究
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18K02371
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
前田 一男 立教大学, 文学部, 教授 (30192743)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 長野県教員赤化事件 / 二・四事件 / 信濃教育会 / 大正自由教育 / 治安維持法 / 教育実践史 / 1930年代 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の研究実績としては3点あげられる。 第1は、『「長野県教員赤化事件」関係資料集』(全3巻)(2018年11月30日)を六花出版から刊行し、その解説を執筆したことである。その内容は、従来から調査を続けて来た長野県教員赤化事件に関係する1934年の裁判記録、当時の学務課職員の残した文書記録、そして地域右翼の信州郷軍同志会が独自に調査した長野県赤化運動の全貌と調査表である。新たに発掘された資料が公刊されることによって、1930年代の教育史研究の深化がはかられる条件を促進できた。またこの公刊については、『信濃毎日新聞』が、2018年6月23日(第1面)および2019年2月27日(第17面)の2回にわたって大きく報道し注目を浴びた。 第2に、2018年7月に信州大学教育学部附属長野小学校および松本小学校、そして2019年3月に諏訪市立高島小学校において、資料調査を研究協力者と共に実施した。長野小学校にや高島小学校には、明治期大正期以来の資料がに豊富に残されており、かつ高島小学校からは「二・四事件」の検挙者が出でいることから、第1次史料の調査という点で、組織的に実施したものである。3つの学校とも直接「二・四事件」にかかわる資料は残念ながら見出せなかったが、周辺資料の収集としては有効であった。 第3は、戦後における「長野県教員赤化事件」(通称「二・四事件」)についての新聞報道をまとめたことである。新聞紙は『信濃毎日新聞』のみであるが、初出の1962年12月の記事から2019年2月の記事まで、長野県立図書館より検索した49件にわたる記事を翻刻した資料集を簡易に作成した。戦後、長野県で「二・四事件」がどのように扱われ評価されたのかについての基礎資料となるものである。分析は、次年度の課題となろう。またこの復刻資料は、最終年度の研究成果報告書に採録する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要にも示したとおり、1年目は研究計画に即して、おおむね順調に進展している。資料調査の計画であった「二・四事件」に関係する高島小学校の「文献庫」に所蔵されている膨大な学校関係資料、および信州大学教育学部附属長野小学校所蔵の長野県師範学校男子部附属小学校学校日誌について資料収集は、組織的な調査が実施できた。加えて附属松本小学校にも訪問できた。 ただし、長野市立公文書館所蔵の後町小学校関係史料(錬成教育の取り組んだ国家主義的な校長松本深が経営)と諏訪教育会館への調査は、まだ実施できていない。理由としては研究協力者との調査旅行の日程が組みにくかったこと、旅費の支出の点で困難になったことがあげられる。また3ヶ所で収集した資料整理も、デジタル形式で収集したことで、その分類整理に時間がかかっていることもある。 全体として、資料調査の最大の調査先として予定していた2つの小学校において、多くの資料収集が出来たことで、研究計画はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の計画では、(1)資料の継続調査として、飯田市立図書館所蔵の上郷尋常高等小学校『職員会誌』および『上郷時報』(昭和初期農村小学校の学校と家庭の連絡誌)があり、(2)記事解禁日であった1933年9月15日の『信濃毎日新聞』『長野新聞』『報知新聞』の3紙の号外の記事内容の分析を行うこと、県議会や帝国議会あるいは文部省だけではなく内務省・特高警察の動向も視野に収めながら、メディアが「事件」をいかに構築しているかに観点を置くことも課題にしてある。 前年度の2018年度の研究計画との関連で言えば、長野市立公文書館と諏訪教育会館への資料調査は、可能なかぎり継続して実施し、学校現場での「二・四事件」前後の教育実態を浮かび上がらせる資料を収集していきたい。さらにその実態を先行研究の記述と照合しながら、検挙された教員たちの思想的な背景の多様性を検証していきたい。 その検証については、研究論文として、1920年代から継承されてきた子ども尊重の自由主義の教育実践が「二・四事件」で検挙された教師たちの実践の中にどのように意識されていたのかについて、新たな資料である「長野県プロレタリア教育資料」(宮坂広作文庫所蔵)を通して、さらに多面的に追求していきたい。この自由主義教育と「二・四事件」との教育実践上の連続・非連続の問題は、今回の科研費申請の重要なテーマとなっている。
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Causes of Carryover |
次年度の旅費を確保するために繰り越したため。
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