2022 Fiscal Year Research-status Report
排他的国民教育から包摂的市民教育への質的、制度的転換の模索-欧州審議会の教育支援
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18K02386
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Research Institution | Nakamura Gakuen College |
Principal Investigator |
吉谷 武志 中村学園大学, 栄養科学部, 特任教員(教授) (60182747)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 包摂的市民教育 / 排他的国民教育 / 欧州審議会 / 多様性 / 教員養成 / EU |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、欧州諸国では文化的背景の異なる他者への反発が、自国民優遇の要求と他者排斥の動きを顕在化させ、支持が広がっている。特に昨今のコロナウイルスなどの一種の災害や国際紛争により、この流れは更に加速している。これに対し各国は有効な打開策を打ち出せずにいる。 このような状況下、一国家のみでは解決困難な欧州の課題に対し、民主主義と人権、法による統治を行動原則とし、民主的な国家、社会の構築を目指す欧州審議会は、域内に見られる排外主義やレイシズム等に対する予防措置として、更に社会的結束や公正な社会作りに貢献するものとして異文化間教育や民主的市民教育に取り組んできた。 本研究は、こうした欧州審議会の教育政策研究や施策が、各国の排外主義への対抗手段としてどのように教育制度や施策改革に結びつき、教員や教育関係者への研修や訓練となり、具体的に教育をいかに変容させ得ているのかを明らかにすることを目的として、近年の教育研究、政策研究を分析してきた。 その名で、国際紛争と経済困難が原因で欧州審議会各国に流れ込む移民や避難民、更に国内マイノリティであるLGBTQ、少数民族や各国移動者への新たな教育的な試が多く打ち出され、例えば「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR: Common European Framework of Reference for Languages)」の改訂や新たな教育事例の集積と加盟国間の共同研究、事例開発は急速に進められており、本研究は、こうした最新の動きに注目し、その資料を収集し分析を進めてきた。 再延長となった今年度に、こうした新たな動きに注目し、本研究の目指す「包摂的市民教育」の在り方、形を見通すところまで研究は進められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料収集とその分析に基づく報告書の作成を進め、めざす包摂的市民教育の構想とそれに対する欧州のこの領域の研究者によるレビューを受ける段階にまでなった本研究であったが、2021年度については、コロナ禍により直接の対話が出来ない状況が続いた。そのため研究期間の延長により、新たな情報収集とZoomなどの代替的な手段による研究交流を試みたのが2022年度であった。
おかげさまで、ICTの積極的な利用による新たな研究環境の構築も進み、収集資料の分析に基づく専門家との交流も進めることが出来た22年であったといえる。また、研究成果の概要にも記載したとおり、包摂的市民教育の一層に進化を模索するような新たな動きも見られる中、最新の動きも参考にしつつ研究が進められたことから、このように判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
再延長の機会を得て、昨年度までに得た新たな理論的知見の深化を目指して、「包摂的市民教育」の理念的な研究だけでなく、各国で具体的に模索され、積み上げられている豊かな実践事例に、具体的に当たることで「包摂的市民教育」の実際的展開を収集し、具体的な在り方を顕在化していくことを試みたい。 なお、ICTによる情報収集や研究交流によりすべきこと、あるいは可能なことについては概ね出来ていると思われる状況にあると判断しており、23年度は現地を訪問し、実際の教育現場に赴き、収集した情報や資料により構築してきたものについて、具体的な事例を収集することで、教育実践に直に触れ分析を積み上げたいと考えている。そのためにも 、欧州地域の教育現場の訪問にあわせて、専門研究者との情報交換(研究レビュー)を実施することが本年での課題である。
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Causes of Carryover |
本研究はもともと最終年度の研究のとりまとめと、現地視察による具体的な教育現場での研修にあわせて当該分野の専門的研究者との交流による研究レビューを受けて、最終報告書をまとめる予定の年度に入っていた。 その予定で延長を認めて頂いたが、直近までコロナ禍の影響、更にウクライナにおける戦乱の影響により、研究者との交流が困難な状況が続いたため、国内で出来る情報収集、成果のとりまとめ作業を行ってきた。 今後は、渡航に関する制限もほぼなくなり、緩和されたので、最終報告書の作成のための渡航を行う。 ここに計上されている残額は、そのための執行経費である。
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