2019 Fiscal Year Research-status Report
「児童生徒理解」実践の領域横断的研究:他者理解の言説実践的特質に着目して
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18K02407
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
稲葉 浩一 北海道教育大学, 大学院教育学研究科, 准教授 (50750436)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 児童生徒理解 / 生徒指導 / 教員間連携 / 教師の同僚性 / 教師の力量形成 / 社会的構築主義 / 言説実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
児童生徒理解実践は、ともすれば心の中をそのまま感じ取るような具体性の欠いたものとして語られたり、あるいは専門的な検査法によって行うべきものとして語られることがある。しかしながらこれらの「理解」観は、日常生活者が行う他者理解実践の特質を見落としたものといえ、本研究は社会構築主義・エスノメソドロジーの立場から、学校教師たちが実際にはどのような児童生徒理解実践を行っているのかを明らかにすることを主眼としている。 本年度は前年度で行われた準備的活動を基礎に、現職教員への聞き取り調査を北海道地域、東京地域の2拠点にて展開し、インタビューデータの蓄積とその分析を行った。以下この過程で明らかになったこと、研究成果を箇条書きにて提示する。 ①児童理解実践と教員間連携の関係性:児童生徒理解実践についての聞き取り調査を展開していくうえで明らかになったことは、現職教員たちは同僚である他の教諭との相互作用(問題及び情報の共有、対応の連携等)を児童生徒理解実践と不可分にして語ることであった。このことから本研究は、言説実践としての児童生徒理解実践を他教員との連携・同僚性の問題に強く関連するものとして、後者に対する構成主義的探究へと視野を拡大することとなった。 ②教員間連携の有する困難:生徒指導上の教員間連携は、とりわけ担任教員において自身の裁量や責任の領域にかかわる問題であり、これ自体が生徒指導上の問題とは別次元の二次的な困難を潜在的に有していることが明らかになった。 ③成果発表:以上の調査の中間報告として、第71回日本教育社会学会(大正大学)教師(2)部会において報告を行った*。さらに論文化に向けた取り組みも進んでおり、研究実績の具体化には一定の進捗がみられている。 *「教師は何を問題とみなすのか―生徒指導実践における教師間連携に着目して」稲葉浩一(登壇、第一・第三報告)・山田鋭生・高嶋江(登壇、第二報告)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の本研究の進捗状況を、以下箇条書きにて示す。 ①インタビュー調査の実施と拡充:2019年度は2018年度の活動を基礎にし、北海道・首都圏の2地域にてインタビュー調査を拡大することができた。また同一のインフォーマントにも回数を重ねることでより質の高いデータを得ることに成功している。だが2019年2月から3月に予定していた研究活動は新型コロナウイルス感染症問題によって、活動を中断せざるをえなくなり、遅れをみせている。 ②教育現場への参与:北海道・東京の2地域において、実際の教育活動を参観する準備を今年度末に計画していたが、②と同じく新型コロナウイルス感染症問題が発生し、教育現場に入ること自体が著しく困難な状況になっている。 ③データの分析と成果:収集したインタビューデータはすべて文字起こしがなされ、一定の分析が行われている。その成果の一部は日本教育社会学会第71回発表で示しており、今後さらなる分析の深化を進めていく。 ④社会規範としての児童生徒理解観の収集:言説分析の立場からテキストデータ収集を行っており、おおむね進捗状況は良好である。 ⑤総合評価:一定の進捗はみせているものの、現職教員にアクセスしやすい2月・3月に新型コロナウイルス感染症問題が発生し、聞き取り調査の拡充、参与観察の準備に支障が生じてしまったため、「(3)3やや遅れている」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策について、以下箇条書きの形で示す。 ①聞き取り調査の拡充と方法の変更:新型コロナウイルス騒動をうけて、聞き取り調査の拡充が難しくなっている。そこで会議アプリzoom等を使用した調査を計画している。だがこの方法は、調査協力者に一定の準備を要請するものであり、とりわけ新規インフォーマントにお願いすることの難しさがある。 ②参与観察の計画(中止を含む):新型コロナウイルス感染症防止の観点から、収束をみせたのちであっても外部者である調査者が教育現場に参与することには困難と危険があることが十分想定できる。そのため研究計画から参与観察を削除、中止することも念頭におきつつ、時勢に応じた活動を考えている。 ③児童生徒理解観念の分析:これまで得たデータに加え、歴史的言説の収集を行うことで拡充を図っていく。また①の活動で得られた実践的言説の分析との接合をめざす。 ④2020年度の業績化:2019年度に得たデータ及び分析的知見をもとに、第72回日本教育社会学会をはじめとした学会発表を予定している。なお今年度より新たな連携研究者(小野奈生子・共栄大学准教授)を迎え、共同発表を行う予定である。 ⑤新型コロナウイルス感染症問題による研究の遅れについて:これまでの遅れに加え、今後の研究活動がどこまで進められるか不透明な部分が大きく、必要と判断した場合は研究期間の延長も考えている。
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Causes of Carryover |
2019年度は73,803円が未使用となり、2020年度への繰越金とした。これは2019年度末に発生した新型コロナウイルス感染症問題を受けて、インタビュー調査等の研究活動の中断を余儀なくされたところによる。繰り越された金額は、2020年度に実施するインタビュー調査及びその文字起こし費用に主として充てる予定である。
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