2018 Fiscal Year Research-status Report
子育て支援推進下における育児休業をめぐる紛争の構造と過程
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18K02416
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
東野 充成 九州工業大学, 教養教育院, 教授 (90389809)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 育児休業 / 子育て支援 / 性別役割分業 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、結婚や出産をめぐって女性労働者と会社が争った三井造船事件、東洋鋼鈑事件、朝霞和光幼稚園事件の3つの裁判例の分析を行い、その結果を学会発表するとともに、学術論文として公刊した。今年度の研究では特に育児休業法や男女雇用機会均等法が成立する以前の事件を分析することで、どのような紛争の歴史の中で、それらの法が制定されていったのかを明らかにするという意義がある。分析結果の概要は、以下の通りである。 まず、これらの事件は昭和40年代ごろに生起したものであるが、その当時、性別と並んで年齢も、女性を旗艦的な業務から外す言説として機能していたことが明らかとなった。すなわち、さまざまな属性が駆使されるなかで、性別役割分業が作動していた。 こうした分業的な体制に異議を申し立てたのが上記のような事件であり、その際、メリトクラシー論を駆使して性別役割分業的な体制へ女性たちは異議を申し立てていた。つまり、能力に基づく処遇を求めたわけである。しかしながらこの能力論は、たとえば「若い=力強い」といった属性と接合されることによって、分業を維持する言説としても機能していた。 最後に、母性を保護する規定も、女性を職業から遠ざけるための言説として機能していたことが明らかとなった。すなわち、母性保護規定を会社が利用することで、女性労働者が望まない処遇をする根拠となっていた。 以上のように、今年度は、育児休業法が制定される前の時代に、結婚や育児をめぐって争われた紛争の構造を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、2018年度は、三井造船事件、東洋鋼鈑事件、朝霞和光幼稚園事件の、男女雇用機会均等法や育児休業法制定以前の事件を分析するとしており、その通りに実行することができた。 また、学会発表を1回行うとともに、その結果を学術論文として2018年度中に交換することもできたので、上記の通り、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、男女雇用機会均等法や育児休業法が制定される前後の事件を分析する。具体的には、東朋学園事件や日本シェーリング事件などの分析を予定している。これらの事件は、出産休暇等を取得したことにより、賃金や賞与で女性労働者が不利益を被ったために起こされたものであり、紛争がどのような構造をとり、また女性や育児に関する言説がどのように機能したのかを明らかにする。 2020年度は、育児休業法制定以後現代までに起こった事件を分析し、現代的な育児休業をめぐる紛争の構造と過程を明らかにするとともに、これまでの研究を総括し、学術論文として公刊する。
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Causes of Carryover |
今年度は本研究開始初年度のため、資料の収集のための旅費等を中心的に計上していたが、資料収集が1回で済んだこと、また、裁判記録など言説資料の保存用のファイルなどをリサイクルで使いまわすなどしたため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額をより詳細な資料を多く収集するための旅費等に充てたいと考える。また、学会発表の件数を増やすことを計画している。
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Research Products
(2 results)