2019 Fiscal Year Research-status Report
中国西南における少数民族の文化伝承の実践に伴う教育のシステム変容に関する研究
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18K02417
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Research Institution | Kanagawa University of Human Services |
Principal Investigator |
金 龍哲 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 教授 (20274029)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 伝統 / 文化伝承システム / 信仰体系 / 文化的多様性 / 教育のシステム変容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国西南における少数民族の文化伝承の実践の実態を明らかにし、その実践は既存の教育に対して如何なるシステム変容をもたらしているかを明らかにすることを目的としているが、実施状況については当該年度において行った四つの現地調査と調査結果の発表状況を中心に報告したい。 一、現地調査について 1.雲南省寧浪県のモソ人の母系社会における文化伝承の現状に関する調査は、①学校教育におけるモソ文化の扱い方、②モソ人の信仰体系を支える宗教的職能者(ダバ)の後継者問題について、学校関係者、地方紙府関係者、ダバ本人を対象にインタビューを行った。 2.雲南省プミ族の文化伝承の実践については、①危機言語とされるプミ語の保護・伝承を目的に設置された「プミ語クラス」の現状、②プミ族の信仰体系を支える宗教的職能者(ハングイ)の育成を目指して設置された「ハングイ文化学校」の現状、そしてその卒業生を対象に行ったインタビューを主な内容として調査を実施した。今回の調査での一番の収穫は、「ハングイ文化学校」卒業生三名に対してインタビューを実施したことと、彼らが掌る法事に対して実際に参与観察を行ったことである。 3.貴州省のトン族の伝統芸能「歌垣」の伝承状況に関する調査は、溶江県車民小学校を対象に実施した。調査内容は、「歌垣」の学校カリキュラムにおける位置づけ、実施方法、担当教師の任用等である。イ族の文化伝承に関しては、現地調整者の事情により調査日程と内容に一部変更が生じたが、学校教育を通して宗教的職能者の育成を目指す「威寧イ文双語職業学校」の生徒募集、カリキュラム設置、学校カレンダー、教員の配置、イ語研修コースの実施等に関する調査は順調に進んだ。 二.調査結果の公表:調査結果は、文化人類学会、アジア教育学会、東アジア日本学研究学会、中四国教育学会、中日教育研究協会等で計6回の口頭発表を行い、一部は学会誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の調査において現地関係者の事情により2点ほど変更が生じたが、研究は概ね計画とおりに進んでいる。変更とは、一つは、貴州省のイ文双語職業学校の設置責任者に対して行う予定だったインタビューが実現できなかったこと、もう一つは四川省チャン族の宗教的職能者を対象とした聞き取り調査が当事者本人の事情で実施できなかったことである。いずれも現地に赴く前に知らされたため、貴州省と四川省での調査日程を縮小し、ほかの地域での調査に切り替えることで調査全体の質を保障することができた。 モソ人母系社会における調査、プミ族の宗教的職能者の育成のための村立の「ハングイ文化学校」、麗江のナシ族文化伝承のモデルとしての白沙小学校、トン族の「歌垣」の伝承基地としての車民小学校、威寧のイ文双語職業学校など現地の関係者との協力体制がしっかり機能し、また雲南省社会科学院、貴州省教育科学院、四川省社会科学院などの研究者による支援体制が整っていることが、本研究が順調に進んだ最大の理由である。 また、調査結果の整理と公表も順調で、5つの学会(国内学会4、国際学会1)と学内研究会で口頭発表を行った。当該年度において、著書1冊(共著)、学会基調報告1回、論文5本(単著4本、共著1本)を学会誌等に掲載している。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナ感染の影響で、研究が計画とおりに進められるかどうか懸念されるところだが、最終年度に当たる本年度は、雲南省、貴州省、四川省のフィールドにおける補充調査を実施しつつ、最終報告書の完成を目指す。 中国西南における少数民族文化の伝承実践が既存の教育に対してもたらすシステム変容とは如何なるものなのか、その意義を教育学的に明らかにし、少数民族文化の伝承装置の構築に向けて制度的モデルを提起することの可能性を検証したい。 中国西南で行う補充調査は基本的に前年度の調査を引き継ぐ形で行うが、研究を今後、更に発展的に展開するために雲南省のジノー族とハニ族、四川省のチャン族の文化伝承についての事例を加えて検討することが必要と考える。とりわけ、今後の大きな方向性として雲南省のプミ族と貴州省の遺族の宗教的職能者の育成システムの他の民族における適用可能性についての検討は重要な意味を持つと考える。
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Causes of Carryover |
次年度使用額として生じた35587円については、翌年度の700000円と合わせて、現地調査等で使用する計画である。
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