2018 Fiscal Year Research-status Report
ニューカマー児童を包摂する学校づくりのための実証的研究
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18K02427
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Research Institution | Hokuriku Gakuin University |
Principal Investigator |
俵 希實 北陸学院大学, 人間総合学部(社会学科), 教授(移行) (60506921)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ニューカマー / ブラジル人 / 学校 / グローバライゼーション / 移動と定住 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,ニューカマー児童を包摂する学校づくりに必要な条件を明らかにすることである。これまでの外国人児童の教育に関する研究においては,定住,特にホスト国での定住を前提としている研究が多い。しかし,グローバライゼーションが進展する社会では,国境を越えて移動を繰り返す児童を射程に入れることが不可避である。学校現場では「移動を繰り返す児童」を射程に入れていないために児童が置かれている状況を把握することができず,児童に関わる課題への対応がより困難になっている。そこで,日本とブラジル間の移動を繰り返すブラジル人児童を対象とし,「移動と定住」という社会学的視点から「ホスト国での定住を前提とする児童」,「母国での定住を前提とする児童」,「両国間を移動する児童」という3カテゴリを設定した上で,研究を進めている。 2018年度は,ブラジル人児童が置かれている状況を把握するために,石川県小松市の公立小学校の国際学級に在籍する児童の学習発表会での観察,小松市公立小学校の国際学級担当教員(2名)と市の日本語支援員に聞き取り調査を実施した。聞き取り内容については,教科の日本語が理解できない,ブラジルと遊び方が異なることから友人ができない,将来日本で生活していくのか,ブラジルに帰国するのかを保護者が決めかねていることで児童の学習の方針が定まらない,保護者が日本の学校文化に対して理解を示さないために児童が学校を欠席がちになるなど,小松市にブラジル人児童が増加し始めて約20年の年月が経過しているにもかかわらず,継続して同様の課題が生じていること,家庭環境が児童に大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。今後は,より一層,児童の家庭環境に注目した聞き取りを進めていく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ブラジル人児童を包摂する学校づくりに必要な条件を明らかにするには,まず児童が置かれている状況を解明しなければならない。そのために,「学校づくり」の観点から学校,家庭,地域で児童とつながりのある人々を対象として,児童との相互作用の中で認識している課題を聞き取る。調査対象者は,学校においては,国際学級担当教員,担任,日本語支援員,家庭においては,両親など家族,地域においては,自治体の関係部署担当者,国際交流協会担当者,近所の人などを予定していたが,対象者が適切であるかどうかを確認するために,小松市の公立小学校の国際学級に在籍する児童の学習発表会に参加した。この会には児童とつながりのある人々が多く参加するからである。その結果,予定通りの対象者で問題ないことが確認された。調査対象地は,石川県小松市と富山県高岡市の2地点とした。両市は,北陸地方に位置し,集住地域とはいえないが県内では比較的ブラジル人が多い自治体で,エスニック・スクールが存在しないという共通点を持つからである。 2018年度は,小松市および高岡市での聞き取り調査,愛知県などブラジル人の集住地域を調査対象地とした先行研究の整理,さらに情報収集のために関連学会への参加を計画していた。聞き取り調査については,授業期間中は,調査を実施する時間的余裕がほとんどなく,学生の夏休み期間中に集中して実施する予定であった。しかし,悪天候やその他の事情から予定していた調査を何度か中止せざるをえないこととなった。対象者と改めて日程を調整したが,調整しきれなかったことから,予定通りに調査を行うことができなかった。ブラジル人の集住地域を調査対象地とした先行研究の整理については予定通りに行うことができ,さらに,実際に愛知県の自治体職員に当該自治体の学校に関する多文化共生政策について話を聴く機会を得た。また,情報収集のため関連学会に参加した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は,小松市および高岡市調査を継続する。2018年度の遅れを取り戻すべく,2019年度の夏休み期間中に集中して聞き取り調査を実施する予定である。また,2018年度にアポイントメントが取れなかった対象者にも聞き取りを行う。2018年度に整理した先行研究および愛知県の自治体職員の話をもとに,改めて愛知県の自治体職員に聞き取り調査を依頼することも考えている。補足調査が必要な場合は2020年度も調査を実施するが,基本的には,2019年度終了までには聞き取り調査を終える予定である。さらに,情報収集のために関連学会に参加することを予定している。 調査終了後の2020年度は,得られたデータから分析および考察を行い,すべてのニューカマー児童を包摂する学校づくりに必要な条件を導く。具体的には,「ホスト国での定住を前提とする児童」,「母国での定住を前提とする児童」,「両国間を移動する児童」の3つのカテゴリごとに聞き取った課題を整理,それらの課題の異同を分析する。そして,3カテゴリに共通して対応すべきことと,カテゴリごとに対応すべきことを考察し,ニューカマー児童を包摂する学校づくりの条件を明らかにする。
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Causes of Carryover |
授業期間中は調査を実施する時間的余裕がほとんどないため,学生の夏休み期間中に集中して聞き取り調査を予定していたが,悪天候やその他の事情で数度にわたって中止せざるをえなくなった。その後,対象者と改めて日程調整を行ったが調整しきれなかった。 2019年度は前年度の遅れを取り戻すため,2018年度以上に夏休み期間中に集中して聞き取り調査を実施し,さらに冬休みや春休み期間中においても調査を実施する予定である。それら聞き取り調査の旅費および聞き取り内容のテープ起こしを業者に依頼する費用とする。
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