2018 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における家族の教育戦略に関する歴史社会学的研究-文化人を中心に-
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18K02429
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
多賀 太 関西大学, 文学部, 教授 (70284461)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 家庭教育 / 教育戦略 / 歴史社会学 / 文化的再生産 / 私の履歴書 / 文化人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、近代日本の「文化人」の職業的地位達成において、学校教育と学歴が果たしてきた顕在的かつ潜在的機能と、そうした達成を可能にした出自家族の意図的かつ無意図的な教育戦略の実態を明らかにすることを目的とする。 3年間の研究機関の初年度にあたる平成30年度には、2016年9月までに日本経済新聞「私の履歴書」欄に掲載された「文化人」の自叙伝の中から30作品を抽出して分析を行った。分析の手順としては、「文芸家」(作家、歌人、俳人、詩人など)、「芸術家」(美術家、音楽家、茶道家、華道家など)、「芸能家」(落語家、歌舞伎・舞台俳優など)の自叙伝172作品のうち、1881-85年生まれ、1901-05年生まれ、1921-25年生まれの3コーホートそれぞれから、男性のみ、生まれ年のより早い人物、同年生まれの場合は新聞掲載が早い作品という基準で10人分ずつ合計30人分を抽出して分析した。 分析の結果、学校教育の機能に関しては、次の知見が得られた。1) 文芸家はその他のタイプに比べて学歴が高い傾向にある、2) 「文芸家」「芸術家」いずれにおいても、①公的カリキュラムが職業的社会化機能を果たす、②学校生活が潜在的な職業的社会化機能を果たす、③学校以外の場が職業的社会化を果たすという3つのパターンが確認される、3)収入を得やすい異なる職業からキャリアをスタートするパターンが顕著に見られる。また、家庭および生育環境については次の知見が得られた。1) 家族が当該職業に就くことを望まず反対されたケースが多い、2) 家族が意図的に教育せずとも家族環境が職業達成に少なからぬ影響を及ぼしたと考えられるケースが多い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、初年度に長期的趨勢の把握を主な目的として、3つの異なる期間内に生まれた対象者の自叙伝を対象に彼らの職業達成における学校教育の顕在的かつ潜在的な機能と家庭の教育環境および教育戦略の影響を分析し、その結果を国内学会で口頭発表することができた。 当初の計画に比べて、本課題のために確保できた研究時間がやや短く、詳細に分析できた自叙伝の数が少なかったため、コーホートによる傾向の違いに関する分析がまだ十分にできていないことと、国内学会誌への論文掲載が次年度に持ち越された点では計画にやや遅れが見られる。 しかし他方で、2年目に予定していた、「文芸家」「芸術家」「芸能家」という「文化人」内部の下位類型別の分析を初年度に先行して行い、類型による職業達成パターンの違いを見いだせたことは当初の計画を超えた成果である。 以上より、今年度において本研究はおおむね順調に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目には、当初の計画通り、「私の履歴書」に自叙伝が掲載された大正期生まれの「文化人」全対象者約60名分の作品を対象として、職業的地位達成過程の分析を行う。分析に際しては、初年度の成果に倣い、①学校の公的カリキュラムによる職業的社会化、②学校生活における潜在的職業的社会化、③学校以外の場における職業的社会化、④家庭における意図的な職業的社会化、⑤家庭における潜在的職業的社会化の5点に焦点を当てて各事例を分析し、職業類型(文芸家、芸術家、芸能家)による傾向の違いを明らかにする。さらに、初年度に実施したより年長の2つのコーホートの分析結果との比較を通して、文化人の職業達成に対する学校教育の機能と家庭教育戦略の時代による変化についても考察を行う。 3年目の最終年度には、すでに実施済みの「経済人」の職業達成における学歴の機能と家庭の教育戦略に関する研究の知見と本研究から得られた知見の比較検討を行い、近代日本の「文化人」の地位達成パターンと家庭教育戦略の特徴を明らかにする。
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Research Products
(1 results)