2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K02435
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
滝口 圭子 金沢大学, 学校教育系, 教授 (60368793)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自然 / 保育者 / 関わり方 / 環境構成 / 保育素材 / 子どもの反応 / 試行の形態 / 科学的リテラシー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成31_令和元(2019)年度は,(1)文献調査の実施,(2)科学の保育実践の観察と協議に基づく要素の精緻化,(3)科学の保育実践の評価(1年目)を目指した。(2)科学の保育実践の観察と協議に基づく要素の精緻化については,K市内の保育所・園,幼稚園の観察及び保育者による実践記録に基づき,保育者の関わりに焦点を当てて分析した結果,①「敢えてしない」(子ども同士の会話を聞きながら見守る等),②「引き出す」(「なんで,とけてしまったんかな~」「誰が早く水なくなるかな?」と声をかける等),③「一緒にしてみる」,④「繰り返すことを可能にする」,⑤「五感を使う」,⑥「わざと間違う」,⑦「他の子どもに尋ねる(地域の資源を活用する)」の7点が抽出された。⑤「五感を使う」は,子どもが自ら五感を用いることに対する適正な評価の他に,保育者が子どもの前で五感の使用を試みる,「どんな匂いだろう?」「触ってみたらどんな感じ?」「どんな味かな?」と五感の使用を促すことが挙げられる。⑥「わざと間違う」では,例えばペットボトルのロケットを飛ばす場合,ペットボトルを縦向きにすると勢いよく飛ぶということを,保育者が早々に子どもに伝えるのではなく,ペットボトルをやや斜めにすることを提案し,横向きの時よりはよく飛ぶという事実をともに確認し,子どもが自身で原理に気づきペットボトルの向きを調整する機会を保障することが挙げられる。⑦「他の子どもに尋ねる(地域の資源を活用する)」は,保育者が回答や方法を直接的に子どもに示すのではなく,周囲の子どもに尋ねる,(本人または周囲の)子どもの保護者に尋ねる,子どもの保護者に来所・園していただき実演の機会を設けるといったことが提案される。(3)科学の保育実践の評価(1年目)については,新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け,予定していた実験及びインタビュー調査の実施が見送られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画調書における平成31_令和元(2019)年度の研究計画は,(1)文献調査の実施,(2)科学の保育実践の観察と協議に基づく要素の精緻化,(3)科学の保育実践の評価(1年目)であった。(2)の一部を「研究業績の概要」欄に記載した。本項では,(1)及び(2)に関して,①「現象に遭遇した時の子どもの反応(0~2歳児)」及び②「疑問の解明に向けての試行の形態(0~5歳児)」について記述する。①「現象に遭遇した時の子どもの反応」は,0歳児は「声を出す,声の高さが変わる,笑う,指をさす,近寄る」,1歳児は「目で追う,手を伸ばす,言葉を発する」,2歳児は「言葉を発しながら指をさす」といった行動が確認された。西日が当たる午後に,壁に映った自分の影に気づき近づいてみる0歳児の姿や,保育者が手のひらの雪を握って溶かしたところ,雪の消失に驚いたように手のひらと保育者の顔を交互に見つめる1歳児の姿が報告されており,3歳未満児の科学の保育実践の追究が求められる。②「疑問の解明に向けての試行の形態(0~5歳児)」は,0歳児は「手を伸ばす,持つ,握る,振る,落とす,叩く,なでる,口に入れる」,1歳児は「再現しようとする,元に戻そうとする,保育士の真似をする」,2歳児は「五感を通して確かめる,繰り返し試す,保育士の真似をする」,3歳児は「真似をする,比べる,自分で考えたことを試す」,4歳児は「繰り返し試す,友達の試行を真似る,自分なりに予想を立て繰り返し試す,生活体験に結びつけて考える」,5歳児は「見本の模倣ではなく自分なりに考えて試す,経験や発見に基づいて予測を立てて試す,予測した結果のみならず予測外の結果にも疑問を持って試す」といった行動が認められた。(3)科学の保育実践の評価(1年目)については,新型コロナウイルス感染拡大の影響から調査の実施が不可能となり,1年程度の遅延が生じることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2(2020)年度は,これまでの成果を踏まえつつ,(1)科学の保育実践の観察と協議に基づく要素の精緻化,(2)科学の保育実践の評価に取り組む。(1)科学の保育実践の観察と協議に基づく要素の精緻化については,引き続きK市内保育所・園や幼稚園の保育を観察し,K市内保育者により収集された保育における科学に関する実践事例を更に詳細に分析し,保育者や連携研究者との協議を踏まえながら「科学の保育実践の本質的な要素」及び「科学の保育実践が持ち得る意義」を精緻化する。(2)科学の保育実践の評価については,K市内保育所・園に在籍する幼児を対象に,生物,物理,化学概念の発達に関連する実験調査やインタビュー調査を実施する。また,K市内保育者を対象とする質問紙調査を実施し,科学の保育実践の評価に加え,保育者自身が有する生物,物理,化学概念あるいはそれらの素朴概念について明らかにし,保育者の有する素朴概念と科学の保育実践との関連性について分析及び考察することも提案される。さて,平成31_令和元(2019)年度は,新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け,調査の実施を見送らざるを得なかった。そのため,(2)科学の保育実践の評価(2年間の縦断研究)に関しては1年程度の遅延が生じることとなった。そうした現状を踏まえ,令和2(2020)年度を開始とする令和3(2021)年までの2年間の縦断研究を実施する,あるいは令和2(2020)年度に3,4,5歳児を対象とする横断研究を実施するという方策が考えられる。本研究の目的を再確認しながらいずれかの方策を選択し,現在生じている1年間の遅延に対応する所存である。また,日本教育心理学会,日本発達心理学会,日本保育学会等の関連学会において,研究発表(ポスター発表,口頭発表)の実施に加え,自主企画シンポジウムやラウンドテーブルを企画運営し,研究の成果を公表する予定である。
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Causes of Carryover |
ポスター発表及び自主シンポジウムの開催を予定していた3月上旬の学会が,新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け,「大会は成立したものとするが,開催期間に会場には参集しない」という措置を取ることとなった。そのため,学会参加及び発表を見越して計上していた経費の使用が見送られた。令和2(2020)年度の各種学会の開催については,令和2(2020)年4月下旬現在においても見通しを立てることが極めて難しいが,可能な範囲で学会発表等を通じての情報公開に努めたい。その他,研究に必要となる資料の購入,論文執筆に要する諸費用の執行が考えられる。
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