2021 Fiscal Year Research-status Report
自分の健康と命を守り、自己を成長させ、体と心と社会的な健康の土台を育む就学前教育
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18K02462
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
渡部 かなえ 神奈川大学, 人間科学部, 教授 (50262358)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 子ども / 幼児教育 / スウェーデン / ニュージーランド / 日本 / 健康 |
Outline of Annual Research Achievements |
生涯にわたり、自分の命と健康を守り、自己を成長させ、体・心・社会的な健康の土台となる力を育む就学前の教育について、2019年までにニュージーランド(NZ)・スウェーデン(SW)・日本の幼児教育カリキュラムの特性を検証し、それらとPISAの国際学力テストの成績及び社会格差との関係を検討した。就学後の学力格差・社会格差とも、カリキュラムが分析的なNZで最も大きく、社会格差はカリキュラムが総合的・包括的なSWで最も小さかった。日本のカリキュラムはNZとSWの中間的な性格で、社会格差は中間、学力格差は最も小さかった。 また、生涯にわたる成長や健康の土台作りには体験を通した学びが重要だが、障害を持つ子どもは体験の機会が少ない。体験格差解消を目的とした知的障害・発達障害児を対象とした自然体験活動への参加で、体力がつき、食欲が出るなどの身体面だけでなく、チャレンジする心や楽しかった思い出を他者と共有しようとする心の健康と育ちの効果が、保護者や活動ボランティアへのアンケート調査から明らかになった。 さらに2020年春からのCOVID-19の拡大は、子どもたちの健康と活動も大きな影響を及ぼした。保育者へのアンケートから、COVID-19に保護者や保育者、社会の目が奪われてしまい、COVID-19以外のアレルギーや他の感染症、疾病以外の子どもの健康問題が見えなくなっているという連鎖的な問題点が明らかになった。 子どもの活動量の低下も感染症拡大下で懸念されていたが、この点は保育者などの努力と工夫で、もともとある程度のレベルにあった静的な体力要素は維持されていた。しかし、もともと劣っていた動的な体力要素は劣ったままあった。保育所の場合、日本では、園庭がどんなに狭くても無くても設置基準を満たしてしまうが、感染症の有無にかかわらず、元気に動きまわって遊べる保育環境の必要性が再確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スウェーデン・ニュージーランド・日本の幼児教育カリキュラムの分析と、この3か国の就学前教育施設の視察を2019年までに終えることができ、2020年はこれら3か国の幼児教育カリキュラムの特徴と就学後の学力格差、成人後の社会格差との関係の検証を通して、自己の心と体と社会的な健康を守る力をつけることと幼児期の教育との関係を検証することができた。研究成果を発表する予定だった国際学会はCOVID-19の影響で中止や延期になってしまったが、論文および国際学術研究紹介誌(Impact)に研究紹介という形で2020までの研究成果を公表することができた。また、対象は就学前の子どもたちではなく小・中学生であったが、幼児にも活用できる内容で、知的障害・発達障害を持つ子どもたちの体験活動プログラムを海辺で実施し、体験が自分の命と健康を守り、自己を成長させ、体・心・社会的な健康の土台となる力を育む成長にを促すことを確認することができた。さらに、COVID-19の影響で実施できる種目は限られてしまったが、幼児の体力・運動能力を測定し、また子どもの健康についての保育者へのアンケート調査を通して、子どもの心と体の健康と環境や社会の関係について考察することができた。以上から、研究はおおむね順調に進んでいると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
子どもたちの、自分の命と健康を守り、自己を成長させ、体・心・社会的な健康の土台となる力の育ちについての、就学前教育の現場でのアクション・リサーチは、COVID-19の影響で2021年度まではできなかった。国内でのアクション・リサーチは、今後、感染状況を見極めつつ、研究協力園と相談しながら実施の方向で調整していく。ただし、COVID-19の感染が2022年度も終息しなかった場合、三密を避けるため、園(保育所などの就学前教育施設)でのアクション・リサーチを行うのは難しいので、広い野外(海辺)で知的障害・発達障害を持つ小・中学生で効果が確認できた体験活動を就学前の子どもたちを対象に実施し、参与観察調査を行う。国外でのアクション・リサーチは、感染症だけでなく戦争のため見通しが立たないので、生きる力の土台として重要な非認知スキルである情緒を育む指導の様子を、スウェーデン・ニュージーランド以外にも協力してくれる対象を広げ、多言語での指導者の発話をリモートで録音しそれを分析することで補完する。 2022年度は研究の完成年度であるため、5年間の研究成果を公表していく。当初発表を予定していたヨーロッパでの国際学会は、COVID-19および戦争の影響で現時点では参加の見通しが立っていないが、発表に向けての準備は進めておく。学会発表の有無にかかわらず、研究成果は論文として発表していく。
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Causes of Carryover |
成果報告を行う予定だった国際学会が、COVID-19の世界的な感染拡大で中止や延期になった。また子どもたちへの感染も問題になってきたため、園(保育所などの就学前教育施設)での参与観察も、2020年に引き続き2021年も見送らざるをえなくなった。 国内外の感染状況と2022年に始まったロシアによる戦争の状況を見極めながらになるが、安全に海外渡航できるようになったら、国際学会参加のための出張旅費として執行する。また、体験格差解消の影響と効果の検証のための調査に必要な予算および研究成果の公表に必要な経費を執行する。 また見通しが立たない国外でのアクション・リサーチを補完するために行う、生きる力の土台として重要な非認知スキルである情緒を育む教育の指導者の発話(協力対象を確保するために、日本・スウェーデン・ニュージーランド以外の教育現場にも対象を広げる)のリモート録音の実施とその多言語テープ起こしに必要な経費を執行する。
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