2019 Fiscal Year Research-status Report
保育者の能力とは何か―実践能力獲得過程の多面的研究
Project/Area Number |
18K02466
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Research Institution | Tokoha University |
Principal Investigator |
長屋 佐和子 常葉大学, 教育学部, 教授 (30410632)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小河 妙子 東海学院大学, 人間関係学部, 教授(移行) (30434517)
鑓水 秀和 明治学院大学, 心理学部, 助手 (60808674)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 保育者 / 職業的アイデンティティ / 保育者効力感 / 情動認知 |
Outline of Annual Research Achievements |
保育者養成大学の学生は,複数の実習を経験することによって,次第に保育者と してのスキルと職業的アイデンティティを獲得すると考えられる。しかし,保育者として就職しても,卒業後6年目までに半数以上が離職している現状が報告されている(全国保育士養成協議会,2009)。こうした初任者の離職を防止するには,保育者としての実践能力や保育者効力感(自らの保育的行為に対する自信と信念)の獲得が欠かせない。本研究では,“保育者の能力とは何か”という問題に焦点をあて,情動認知の特徴,言語・行動機能の視点から,保育者の実践能力の獲得過程について解析を行うものである。 2018年度の研究では,学生(2名)・保育者(6名),幼稚園の園児(約80名)に協力を依頼し,絵本の読み聞かせ場面のビデオ映像を撮影した。 2019年度は,保育者の絵本読み聞かせ場面にかかわる要因の抽出を行うため,ベテラン保育者2名に上記のビデオ映像を提示し,内容について自由に討議するよう依頼した。ベテラン保育者の発言内容は筆記により記録した。得られた自由回答記録を用いて,保育者の経験年数による熟達化について計量テキスト分析を実施した。その結果,教育的な意図,保育者の行動・感情,子どもとの信頼関係,子どもの問題行動,絵本を読むときに大切なこと,自然な読み聞かせの6クラスターが抽出された。保育者の経験年数による各クラスターの出現頻度について検討した結果,経験年数によって読み聞かせの特徴が変化し,より複雑化・個別化していく様子が示された。 また,複数人の顔表情の認知についての実験では,あいまいな表情の乳幼児写真を4枚同時に呈示し,それらの顔写真が表出する感情の平均を快―不快の9件法で回答するよう実験参加者に求めた。分析の結果,複数の乳幼児に対する表情判断の個人差は判断の正確性に表れる可能性を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の当初計画とその進捗状況,及び変更点は以下の通りである。 第一に,当初予定されていた絵本読み聞かせ場面におけるベテランと学生の比較の実施であるが,実際の絵本読み聞かせのビデオ映像を用いて,ベテラン保育者に視聴を依頼し,自由回答の内容について計量テキスト分析を実施した。この成果については常葉大学紀要として発表している。このため,予定通りの進捗であるといえる。 第二に,複数人の顔表情の認知についての実験による調査については予定通り実施され,基礎心理学会において発表を行った。複数人の顔表情の認知についてのPC上での学習経験が,実際の読み聞かせ場面における成績向上に効力があるかについての検討は,新型コロナ感染症のため実験が遅延したため,2020年度に実施する予定である。 第三に,ベテランと学生の絵本読み聞かせ場面の言語分析,行動分析による比較については,第一次の評定作業を完了した。分析を行った結果,評定方法の変更が必要となったため,2020年度4月に再評定を実施し,その後分析作業を行う予定である。 上記のように,研究の進行に伴う分析方法の変更などによって若干遅延は生じているものの,概ね順調に進行していると考えられる。また,新型コロナ感染症の影響により,2020年7月に予定されていた国際学会での発表が1年間延期となった。このため,研究の進行及び発表予定に変更が生じることが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は下記の通りである。 第一に,2019年度に実施予定であった計画を遂行する予定である。まず,複数人の顔表情の認知についてのPC上での学習経験が,実際の読み聞かせ場面における成績向上に効力があるかについての検討を行う。実験参加者が必要であることから,新型コロナ感染症終息後に実施する予定である。 また,ベテランと学生の絵本読み聞かせ場面の言語分析,行動分析による比較については,2019年度の評定作業によって分析の時間単位を修正する必要があることが明らかとなったため,第二次の評定作業を行うこととなった。このため,2020年4月に第二次の評定作業を実施し,その後分析作業を行う予定である。これらの検討によって,保育者の熟達化の様相について多面的な検討を行う。 第二に,新型コロナ感染症の影響により,2020年7月に予定されていた国際学会での発表が1年間延期となった。このため,学会発表の当初予定を変更し,国内学会での発表,論文発表等に変更することを検討する。 第三に,2019年度までの研究成果を基盤として,「保育者の能力とは何か」という課題について総括を行う予定である。2020年度の研究では,経験年数の異なる保育者を対象として質問紙およびインタヴュー調査を実施する。また,離職者に対してもインタヴューを実施し,離職減少に寄与する要因について検討を行う予定である。この結果をもとに,保育者効力感と実践能力との関係性に加えて,これらの要因が離職に与える影響についても検討を行う。
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Causes of Carryover |
本研究は,“保育者の能力とは何か”との課題について検討を行うことを目的としている。当初,2019年度2月以降に複数人の顔表情の認知に関する実験を実施する予定であったが,新型コロナ感染症の拡大により,実験参加者を募集することが困難となった。このため,実験参加者に対する謝金の支払いを2020年度に繰り越す必要が生じた。また,ベテランと学生の絵本読み聞かせ場面の言語分析,行動分析による比較に関する評定作業を追加する必要が生じたことから,該当する謝金を2020年度に繰り越すこととなった。さらに,2020年7月に行われる予定であった国際学会が新型コロナ感染症の影響によって1年間延期されたことに伴い,発表原稿の英文校正などの作業が翌年に延期された。 上記の理由により,残金358,424円を2020年度に使用する予定である。
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