2020 Fiscal Year Research-status Report
行動規範や価値観の多様性に着目した多文化共生保育の研究
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18K02472
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Research Institution | Tokiwakai Junior College |
Principal Investigator |
卜田 真一郎 常磐会短期大学, その他部局等, 教授 (20353021)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平野 知見 京都文教大学, 臨床心理学部, 准教授 (10441122)
長澤 貴 鈴鹿大学短期大学部, こども学専攻 幼稚園教諭・保育士コース, 教授 (20515134)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 多文化共生保育 / 価値観・行動規範の多様化 / イスラームとの共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、ドイツ・ライプツィヒの保育現場に勤務するムスリムの保育者へのインタビュー調査と分析を行った。また、ムスリムの保育者へのインタビュー調査の現地担当者であり、ドイツの保育施設に子どもが通う日本人保護者との鼎談を行った。また、国内学会において多文化共生に関わるシンポジウムを行った。 1.ドイツの保育現場に勤務するムスリムの保育者へのインタビュー調査:ドイツ・ライプツィヒにおける移民や難民の子どもが在籍する保育現場に勤務する「自らも移民でありムスリムである」3名の保育者へのインタビュー調査については、これまでに得られた語りのデータを研究者と現地担当者で協議、さらなる質問を設定して再度インタビューを実施した。 2.ムスリムの保育者へのインタビュー調査の現地担当者であり、ドイツの保育施設に子どもが通う日本人保護者との鼎談:大阪教育大学の初等教育教員養成課程幼児教育専攻の専門教育科目「保育とダイバーシティ」の授業の一環として鼎談を実施した。ドイツにおける外国人としての立場から見える多文化共生の現状や課題、ムスリムの保育者への聞き取りを通して見えてきたことについて話題提供をいただき、質疑応答を実施、まとめを論文として発表した。 3.多文化共生に関わる保育者養成のシンポジウム:第73回日本保育学会において、自主シンポジウム「保育現場におけるイスラームとの共生の模索Ⅳ」を開催し、「イスラーム」と「性の多様性」に焦点を当てて、マイノリティ・コンフリクトをテーマとした議論を紙上での話題提供で実施した(新型コロナウイルス感染拡大の影響で会場に結集しての学会は未実施)。また、日本乳幼児教育学会第30回大会において、「保育現場におけるイスラームとの共生の模索Ⅴ」を開催し、ムスリムの保育者・保護者・ドイツ在住の日本人保護者のそれぞれの立場からの話題提供をもとに議論を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、ドイツの保育施設の休業、研究代表者や研究分担者らの勤務先における新型コロナウイルス感染防止にかかる業務の多忙化の中、研究そのものが一時休止状態になったため、研究の進捗状況は遅れている。そのため、当初2020年度までであった研究期間を1年間延長し、2021年度を最終年度とする申請を行い受理されている。 ムスリムの保育者への聞き取りについては、ライフヒストリーと保育実践への意識の関連に焦点を当てて聞き取りを実施しているが、データの分析を通して来独の経緯や時期によって保育者自身の経験が異なること、イスラームの価値観や行動規範とドイツの保育現場で保育者として勤務することに際して発生する葛藤への折り合いのつけ方の多様性などが明らかになり、そうした一人ひとりの判断の多様性とその背景にある社会的・歴史的・文化的背景との関連について検討を行っている。こうした中、保育職としての保育実践への意識のありようも大きく異なる可能性が見出されたため、新たな調査対象者への聞き取りを2021年度中に実施予定である。 「ムスリムの保育者へのインタビュー調査の現地担当者であり、ドイツの保育施設に子どもが通う日本人保護者との鼎談」は、価値観や行動規範をめぐる諸問題を検討する重要な機会となり、大学の授業の一環として行われることにより、保育者・教員の養成にも寄与する機会となり、大きな成果を上げることができた。 また、ドイツの園における「多様な当事者性を持つ保育者が勤務する園の管理職の意識の調査」については、調査対象を再度検討しなおす必要が生じており、今後、当事者を対象とした調査の結果等を踏まえながら、質問項目の精査と調査対象者の再検討を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては下記の通りである。 まず、保育者という「人」の当事者性・非当事者性と多文化共生保育の関連を検討するために実施されてきた「当事者性を持つ保育者の意識の調査」については、子ども時代に文化間移動を経験し、さまざまな葛藤を経験したムスリムの保育者という共通の経験と立場を体現している新たな調査対象者へのインタビューを実施し、ライフヒストリーと実践についての語りを、TEM(複線径路・等至性モデル)を用いて図式化を行い、2021年度内に論文の執筆を行う。また、ムスリム当事者である保育者が勤務する園の管理職へのインタビューについては、すでに実施された内容の分析を行い、2021年度中にさらなる質問を設定すると共に、調査協力者を選定し、インタビュー調査の実施へと繋げる予定である。 また、これまでにもシンポジウム等を通じて、民族・文化・信仰などの違いにもとづく価値観や行動規範の違いはさまざまな対立と摩擦を生起させる可能性があることを確認してきたが、保育現場においてこうした価値観や行動規範の対立を超えて共生を模索する方法についての対話を継続する。さらに、大学の授業の一環として行われる様々な当事者との鼎談については、価値観や行動規範をめぐる諸問題を検討する重要な機会であることから、2021年度 については、ドイツに在住する日本人保護者・日本で暮らしているムスリムである日本人保護者・ドイツの保育現場に勤務する移民でありムスリムである保育者の三者を交えた鼎談を予定しており、そのまとめを論文として整理する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、聞き取り調査を予定していたムスリムの保育者が勤務するドイツの保育施設の休業、研究代表者や研究分担者らの勤務先における新型コロナウイルス感染防止にかかる業務の多忙化の中、研究そのものが一時休止状態になったため、2020年度に予定していた調査の進捗が遅れ、当初使用予定であった研究費(インタビュー謝金や聞き取りのデータ起こし等)が予定通り使用されなかったため、次年度使用額が生じている。そのため、当初2020年度までであった研究期間を1年間延長し、2021年度を最終年度とする申請を行い受理されている。
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Research Products
(2 results)