2018 Fiscal Year Research-status Report
精神疾患をもつ保護者とその子どもたちー子どもの「主体」と「語り」からのアプローチ
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18K02481
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
畠垣 智恵 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (60436988)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 精神疾患 / 統合失調症 / うつ病 / 精神疾患をもつ親 / 子どもへの心理教育 / Let's Talk / フィンランド |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の目的(1)精神疾患を抱える保護者をもつ子どもへの支援ガイドライン作成 <こころの病気を抱える親をもつ子ども>のハンドブックと<こころの病気を抱える親>のハンドブックの著者でもあるTotti Solantaus博士のグループの研究と実践についての資料収集をおこなった。また、こころの病気を抱えている親、子ども、家族の支援方法としてフィンランドで広く用いられている「Let's Talk」について、実際に、フィンランドのTurku大学附属病院児童精神科、家族支援センター(ネウボラ)、カウンセリングルーム、就学前教育においてどのように用いられているのかを明らかにするため、各施設において観察および支援者へのインタビュー調査をおこなった。 結果、保育や教育の場においては、「こころの病気や問題を抱える親をもつ子ども」を対象として取り出して支援をするのではなく、すべての子どもたちは語りたい何かを持っており、何らかの支援ニーズをもっているという前提に立ち、ガイドラインを子どもへの日々のかかわり方に生かしていくという柔軟な利用がなされていた。本支援法を用いる際の難しさや配慮を要すること、運用上の工夫についても明らかになった。
研究の目的(2)精神疾患を抱える保護者をもつ子どもへの支援について、本邦の精神科医療における現状を明らかにする 県内医療機関に従事する精神科医と臨床心理士5名へのインタビュー調査を行った。結果、児童精神科の場合には、子ども自身も患者として通院し、その親もまた患者であることもあり、その場合には、親子が相互に影響しあっていることを考慮するが、具体的な支援については「特にない」「診断名を配慮して子に伝える(伝えない)」などが挙げられた。また、大人の精神科の場合は、親の通院に子どもが同行することが少ないので、患者である前に一人の子育て中の親であるという認識は専門職にも乏しかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は2017年9月~2018年9月まで所属大学からの派遣でフィンランドに一年間滞在した。そのため、フィンランド国内における資料の収集や研究協力者や協力施設の開拓、研究の打ち合わせについては、渡航費・移動費をかけることなく当初の計画以上に順調に進んだ。 しかしながら、2018年9月に帰国後、所属大学の年4回開催されている「ヒトを対象とした研究倫理委員会」への申請が間に合わず、そのため、日本国内での研究協力者及び協力施設に出向いてのインタビュー調査などをおこなうことはできなかった。国内調査については、まだ資料収集、文献研究、協力施設への依頼の段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
当事者である成人した「子ども」本人へインタビューをおこなうことについて、2019年9月開催の学内倫理委員会へ申請し、倫理委員会の承認を得て、愛知県、静岡県内の医療機関を通じてインタビュー協力者を募集する。 精神科医療・福祉に従事する専門職へのインタビューについては、平成30年度にインタビューをおこなった静岡県の協力者から紹介という形で協力者を広げ、他県の専門職5名程度にインタビューをおこなう。紹介という形の雪だるま式では数が集まりにくいため、2019年度に児童精神医学会の会員名簿や学術集会を通じてインタビュー協力者を募るようにする。
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Causes of Carryover |
研究代表者は、2017年9月~2018年9月までフィンランドに滞在しており、その1年間の間にフィンランド国内での調査を十分に実施することができた。そのため、日本国内での調査については、当初、愛知、静岡、東京、長野で実施する予定であったが、静岡県内の専門職へのインタビューに留まり、国内旅費がかからなかった。 インタビューの文字起こしのためにアルバイトを雇用する予定であったが、インタビューは専門職5名にのみ行ったため、研究代表者が自ら文字起こしをおこなった。 2018年9月に帰国後、2019年2月にフィンランドへ渡航し調査を継続する予定であったが、フィンランドの研究協力者のほうから渡航費等を負担し来日して静岡市内で打ち合わせをすることができたため、日本~フィンランドの往復渡航費を使用しなかった。 次年度は、2回のフィンランド現地調査の計画を立てており、5月と3月に実施し、フィンランド語、英語による文献収集と英語によるインタビューをおこなう予定である。5月の渡航後は、すみやかにインタビューの文字起こしのためのアルバイトを雇用し、質的分析の作業を進めていく。フィンランド語版マニュアルの翻訳作業についても、翻訳者に依頼する。
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