2022 Fiscal Year Research-status Report
戦前の日中両国における保育所の成立と展開に関する比較史研究
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18K02491
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
日暮 トモ子 日本大学, 文理学部, 教授 (70564904)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 保育所 / 幼稚園 / 母親 / 養育の社会化 / 子育て意識 / 家庭教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、戦前の日中両国における保育所の成立と展開にみられる特徴を、近代以降、育児の主たる担い手とされた母親の役割の変容から明らかにすることである。両国はいずれも海外から幼稚園制度を導入し、その一方で、貧民や労働者の子弟のための保育所制度を構築、発展させていった経緯がある。福祉事業としての保育所制度の成立及び展開の過程において、教育事業としての幼稚園制度の展開との相違点や、家庭における母親の役割についての語られ方について、比較史の視点から検討するものである。 2022年度も新型コロナの影響で現地調査が実施できなかったため、国内外の図書館等での資料収集を継続した。また、幼児教育関係者に対し、1990年代以降から今日に至るまでの就学前保育・教育の動向について資料交換や意見交換を行った。 2022年度は、戦前の保育事業の特徴を捉えるために、戦後初期の中国の就学前保育・教育制度の発展経緯を整理した。主に「再建期」(1949-1965)と称される時期を対象に、同時期の前半のソ連の幼児教育理論の需要期と、後半の中国の国情に合わせた就学前保育・教育制度の整備期に分け、その特徴を分析した。再建期では、家父長制の家族制度の廃止、男女平等が提唱される中で、しだいに女性の就労や子育てに対する支援が課題となり、それがその後の幼稚園・保育所制度の整備へとつながっていった経緯を確認した。 このように、戦後初期の中国では、婚姻形態の変化、女性や母親の就労の拡大、経済復興などを背景に、家庭や社会のニーズに応じた、福祉的側面がより強調された様々な就学前保育・教育施設が誕生することになった。だがそれが、当時の家庭における母親の子育て意識やジェンダー意識にどのような影響を与えたのか、また、その後の保育事業の展開にどのような影響を与えたのかについての検討にまで至らず、今後の課題となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度も新型コロナの影響で海外調査による資料収集が十分に実施できなかったことが主たる理由として挙げられる。現地調査が実施できていないため、インターネットを通じて国内外の図書館で資料収集を行い、収集した文献資料をもとに分析、考察を進めているところである。現時点で、戦前、戦後の日中の保育所事業の発展状況について一定の特徴を把握することができているが、当時の時代背景や社会状況に基づいた両国の比較考察が今後の課題となっている。また、中国・日本の幼児教育研究者や関係者からの聞き取り状況については、対象者の選定を行い、聞き取りを重ねたことで、今日の幼稚園及び保育所にみられる制度的変化など、両国の就学前保育・教育制度・政策の現状や子育て意識について一定の知見を得ることができている。だが、中国での現地調査を通じた聞き取りが十分にできていないため、養育の社会化との関連からの保育所保育の展開過程の分析が不十分であり、その成果の公表にまで至っていない点が課題として挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで収集した資料の分析をさらに進め、日本との比較の視点から、本研究の総括を行う。その成果については、国内外の学会等で発表や論文として公表することを計画している。合わせて、オンラインや現地調査を通じて専門家や関係者からの情報提供や聞き取りを継続して行い、より実証的に検証していくことを予定している。そこから得られた知見をもとに、さらに、今日の両国の就学前保育・教育政策動向を踏まえながら、戦前期の日中両国の保育所の成立および展開にみられる特徴を、家庭における母親の役割変容、子育て意識、ジェンダー意識を分析軸として考察していく。
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Causes of Carryover |
海外での現地調査のための旅費として計上していたが、新型コロナウィルスの影響によって実施できなかったことが主な理由である。 今後は、最終年度のとりまとめを行い、これまで収集した資料の分析を重点的に行うとともに、その成果を国内外の学会での発表や論文として公表していく予定である。可能であれば2023年度内に海外での現地調査を行い、より実証的なかたちで研究成果をまとめることを計画している。
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Research Products
(1 results)