2021 Fiscal Year Research-status Report
PTA民主化の思想史研究ー1970-2005年『PTA研究』の分析を中心に
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18K02509
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
桜井 智恵子 関西学院大学, 人間福祉学部, 教授 (00300343)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リベラリズム / 資本主義 / 能力論 / 子どもの権利 / 国民教育論 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度焦点づけた教育におけるリベラリズムの位置どりを中心に研究を進めた。2021年9月に上梓した『教育は社会をどう変えたのかー個人化をもたらすリベラリズムの暴力』において、現代リベラリズムの概念と構造化について教育と経済の視点から検討した。 本書第2章「大人社会の現在」では「個に還元しない能力論を学校が保護者や地域と共有すること」について、第3章「戦後教育の枠組みー自己責任の誕生」では以下のような知見をえた。 『PTA研究』の初期、70年代以降は偏差値、学力テストなど、個人の学力保障へと教育現場は駆り立てられ、多忙化が進む学校では、子どもの声を受け取る余裕は与えられず、子どもを取り巻くトラブルは家庭の問題と認識されるようになった。 『PTA研究』をめぐる市民グループの言論は子どもの権利論のさきがけになったが、「こども家庭庁の『こどもまんなか』政治」(『現代思想』2022年4月)では、子どもの権利論における親の教育権論と個人化も検討した。そこで、民主教育運動のリベラリズム思想に関する原理的な分析に取り組んだ。「人権としての教育」として教育権や学習権を把握してきた戦後教育学研究の土壌があるが、国民教育権論として学習権保障の主張で成立する教育研究や運動は、他面では人的資本論を背景に個の能力主義を促進することになった。 子ども施策を統合し充実した支援をと考える方向性は、資源化されている子どもをつくりだす態勢を問うのではなく、支援のシステム化に包摂される傾向が見受けられる。 これらの議論を含む合評会を大阪市立大学経済政治研究会、社会配分研究会で行い、本研究についても意見を交わした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の成果として、『教育は社会をどう変えたのかー個人化をもたらすリベラリズムの暴力』を出版し、関連論文も執筆することができた。 民主的なPTAを志向する市民・保護者のリベラリズム思想や国民教育論の戦後思想史における位置づけのために、本書で理論先行研究を整理し、リベラリズム思想の現在への影響を明らかにすることができた。 『PTA研究』のバックナンバーにおいて市民たちの意見は多様で興味深く、すべての議論の分類には至っていないが、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となるため『PTA研究』バックナンバーの時代別分類に即し、市民たちの多様な意見の分類整理にも努め、オピニオンリーダーの議論についての傾向の課題整理をまとめたい。 民主的なPTAを志向する市民・保護者のリベラリズム思想や国民教育論の戦後思想史における位置づけのために先行研究を整理し、リベラリズム思想の現在への影響を一定、明らかにすることができたため、その概念地図と本研究全体を構造化したい。
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Causes of Carryover |
本年度は著書の取りまとめのため時間を費やしたこともあり、『PTA研究』分析ととりまとめが繰り越しとなった。 次年度使用額については、研究成果をまとめたブックレット作成のための費用に用いる計画をしている。
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Research Products
(2 results)