2022 Fiscal Year Research-status Report
PTA民主化の思想史研究ー1970-2005年『PTA研究』の分析を中心に
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18K02509
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
桜井 智恵子 関西学院大学, 人間福祉学部, 教授 (00300343)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | リベラリズム / 資本主義 / 能力論 / 市民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
市民社会のチャレンジの意義や限界について思想の動向を分析・検討し、民主化活動の思想史研究を重ね、その構造化について教育と経済の視点からの研究を展開した。22年度はもっぱらこれまでの研究をさまざまな角度から執筆した。 『PTA研究』に連なる市民グループの言論は子どもの権利論のさきがけになったが「『子どもの権利』の使われ方―ベールをかける物語」(『2022年 所報』)では、「子どもの権利」をまなざす国家と資本による注目について整理した。「取り出される『ケア』―ヤングケアラーの構築」(『現代思想』2022年11月)では、家庭内ケアがどのように位置づけられ政治化しているかを後づけ、ケア研究から現状枠組を分析した。「子どもの『ニーズ解釈の政治』―学力向上と支援の完結型体制」(『アジェンダ―未来への課題―』)では、学校と家庭に閉じられた戦後体制について論じた。 「〈われわれ〉への叛逆ー子ども・若者の全体性と自由」(『福音と世界』2023年2月)では市民社会における主体としての「われわれ」の構築と(不)可能性について論じた。「インクルーシブ教育を考える重要な視点―国連主義を超えて」(『はらっぱ』2023年3月)では市民運動の意義や限界について新しい視点を提出した。 子どもの権利論における個人化とリベラリズム思想に関する原理的な分析を通し、それらが現代の教育研究や運動の基本原理と強く結びついていることが見てとれた。「居場所を増やす」というような市民側からのチャレンジだけであると、他面では搾取的な資本主義社会を補完することになり、子ども施策を統合し充実した支援をと考える方向性は、資源化されている子どもをつくりだす状況は問わず、支援のシステム化に包摂される傾向が見受けられる。 これらの報告を日本教師教育学会での課題研究や社会配分研究会などで行い、意見を交わすことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の進捗状況はおおむね順調に進展している。2022年度は、コロナ禍による状況下もあり、調査に出向くことを自粛し、研究のとりまとめに時間を費やした。成果として、5本の関連論文を執筆することができた。 収集した資料を分析し、市民社会のチャレンジや教育研究の原理が、リベラリズム思想をベースにした位置づけのために、子どもや家庭、学校における主体形成に深く影響を及ぼしている点について、思想史研究を通して明らかにすることができた。 また、本研究が焦点を当てている1970年代から2000年代にかけて、市民社会における人々のあいだでどのような議論が展開し、認識が形成されてきたのかを理解するため、『PTA研究』発刊中の時期の市民社会誌も参考にして、収集した資料を用いて分析にとりかかることができた。 これらを通して、どのように市民社会においてリベラリズムが選ばれ、発動され、主体形成が再編・強化されたかについて把握することができた。22年度の研究では、ここまでの段階で収集した資料を分析し、学会や研究会で報告した。論文を執筆するにあたり、研究会の参加者から有益なコメントと質問を得ることができた。ただし、新型コロナ対応の影響もあり、調査に赴くことがほとんどできなかった。最終年度では、海外でのヒアリングなども含め、射程を広げた上でとりまとめたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は理論枠組みの構築に取り組むとともに、追加調査を進めていく予定である。それぞれの研究計画は以下のとおりである。 第一に、これまでの研究で、民主運動における市民・保護者の思想や国民教育論の戦後思想史における位置づけのために先行研究を整理し、リベラリズム思想の現在への影響を一定、明らかにすることができたため、その概念地図と本研究全体を構造化したい。 今年度も、理論枠組みの構築のために文献リストを作成し、文献の熟読と議論を定期的に実施する。研究目的のひとつでもある、経済のグローバル化が進む以前の1970年代の『PTA研究』の議論にみられる特徴と、その後の展開の違いと普遍性を浮かび上がらせるよう取り組みたい。さらに、この時期からの政治経済形態の再編による主体形成を視野に入れ、説明できる理論枠組みを検討する予定である。 第二に、事例の比較分析のために、日本の社会・政策状況と近しい英国調査に赴き、理論研究と照らし合わせながら、教育学研究や孤独研究と結んで考察していく予定である。民主化思想研究の一環として、以下のプロジェクト参加を予定している。 ○ロンドンおよびリーズにおける社会問題調査 ○英国研究者からのヒアリング・ホームレス支援団体や、難民支援・フードポバティ問題に取り組む団体の調査・ヒアリング ○リーズ大学社会学部にて共同研究討論会の実施など。 以上をとりまとめ、共同研究として複数の書籍化を予定している。
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Causes of Carryover |
本年度は新型コロナの影響で、調査などが繰り越しとなった。 次年度使用額については、海外での調査と共同研究討論会を計画している。
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Research Products
(7 results)